小野先生の一期一会地球旅㊸「海外看護事情視察団に添乗して その2」

一期一会 地球旅 43

海外看護事情視察団に添乗して (その2)より集中的な学びへ

平成元年度(1989年)海外看護事情視察団は多分、期待以上の大きな学びを得られたと思うが、あわただしい日程であったことは否めなかった。多くのテーマを掲げてたくさん視察することは望ましいことではあるが時間的な制約やことばの壁もあり団員に於かれては、隔靴掻痒の思いをされることもあったと思う。 勿論、20名以上もの団員での視察に比べればはるかに効率が良く、しかも同じ分野の職種ということで興味の範囲も絞られているので話が行き違うとか、理解不足に陥るなどのことは無かったが、深くなればなるほど希望も幅広くなる。 そのあたりのことも忖度されて第2回目の看護事情視察団(Nurse Tour)は翌年10月末の出発へ向けて準備が始められた。 5今回のテーマは、訪問看護、より資質の高い看護職の育成、看護婦(*)不足への対策などであった。前年の経験談なども参考にしながら、担当された看護室長補佐の村松氏とさらに良い視察ができるようにとなお一層準備に力を入れた。米国では、医療費の高騰により入院日数が極端に短縮されており、入院期間中に高度の医療が集中され、看護サービスに於いても専門化された密度の濃いものが要求されていた。結果として、退院後の在宅ケアの必要性がより高まり、様々なニーズに対応するためにも訪問看護と専門看護婦の育成に力が入れられていた。また、行った看護の内容について厳しい査定も行われており、より品質の高い看護が一層求められていた。そのようなことをこの第2回目の視察団では各所で見聞された、と報告書にある。(平成2年度 海外看護事情視察報告)

今回も、今を盛りの紅葉が美しい彩りを見せ、秋も一段と深まったシカゴが最初の訪問地であった。イリノイ州立大学シカゴ校(UIC)看護学部で先ず、オリエンテーションとして地域看護に関する教育課程、特に公衆衛生、在宅ケアなどについて講義を受けた。この時も、ヴァージニア・M・オールソン博士の支えがあり、看護学部で講師をされ日本人留学生などもお世話になっている小野田千恵子先生が現地視察等で全面的に動いてくださった。また、実際の講義や様々なプログラムの設定ということで副学部長のベヴァリー・J・マクエルマリー博士が全面的に指導してくださった。UICでの講義に続いて、地域における各種施設として、日系アメリカ人定住者会のデイケアセンターと高齢者アパートの平和テラスを訪れた。また、病院が行う訪問看護の仕組みについてはスウェーディッシュ・コヴェナント病院(Swedish Covenant Hospital)を訪れた。神学校系の慈善団体がバックに立つ総合病院で、320床の総合病院を基幹施設として、ホームヘルスケア(訪問看護)、コヴェナントホーム(特養型と中間ケア型ホーム)、ライフセンターと呼ばれる健康増進施設がある。この医療事業体は米国に於いては小さな存在であるが地域に密着し、質の高い看護を提供しているということで知られていた。

4続いて、今回もボストンにベス・イスラエル病院を訪問した。訪問看護実施のきっかけと訪問看護の位置づけが主たる視察の目的であった。 DRGシステムによる在院日数の短縮とこの病院におけるヘルスケアの充実拡大という目的で地域の高齢者を対象に約10年前(1980年頃)から訪問看護が実施されていた。その根幹は、プライマリーナーシングの理念に基づくプライマリーケアが前提であり、ケース個々に対して、入院から退院まで、そして退院後のケアに至るまで一貫したケアが提供されることになっていた。具体的には、入院時点でプライマリーナースが在宅ケアに関することも含めて計画立案し、退院前にMSW(医療ソーシャルワーカー)と訪問看護部門の看護婦が患者を見ながら退院計画に加わるという仕組みであった。病院での看護と訪問看護をオーバーラップさせながら患者とのかかわりを持ち、スムーズに訪問看護へと移行させるというのがこの病院での仕組みであり、高く評価されていた。
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続いて、ニューヨーク訪問看護協会(Visiting Nurse Service of New York)を訪れた。当時すでに間もなく創立100周年を迎えるというアメリカでも最古の訪問看護組織の一つであった。米国では、病院看護とは別に、在宅看護の仕組みがはやくから作られており、ニューヨークのこの組織では、成人ケア、ホスピスケア、長期ケア(高齢者・小児の慢性疾患)、エイズに関するもの、ハイテク医療、母子衛生、地域における精神衛生サービスなど多岐にわたる事業が行われていた。また、この組織の紹介でロナルド・マクドナルド・ハウスを訪ねた。小児がん患者の宿泊施設であり、全米各地からニューヨークにある医療施設で集中的にガンの治療を受ける小児患者とその家族が一定期間過ごすことができるようにとハンバーガーのマクドナルド財団が設置している非営利の施設である。1974年にフィラデルフィアで最初に造られたそうであるが、ニューヨークのこの施設は80年頃に開設されたということであった。余談であるが、拙宅の近くに国立成育医療研究センターがあり、その敷地内にもこのハウスがある。現在、日本国内には8か所あると紹介されている(ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン資料より)。

この視察団は、最後にロサンゼルスでカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校付属メディカルセンターを訪れた。全米トップ10に入る優秀な医療施設として知られていた。600床の病院で、1/3がICU(集中看護室)であり、15のセクションから成っていた。ナースが1100人配置されており、その60%が4年生の学士レベルを有しているとのこと。またナースの60%以上がカリフォルニア州以外(全米各地)、欧州、アジア、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどから来ているという国際色豊かな存在でもあった。また、20~30%が修士号を得るためにUCLAの看護学部ほか域内の大学で勉強しているとのことであった。こうして第2回目の視察団は多くの見聞を経て帰国された。手前味噌で恐縮ではあるが、前回以上に密度の濃い視察をされたと思う。

Nurse Tourは、平成3年度(1991年)以降もずっと継続して派遣された。年ごとに視察希望事項も時代背景と併せて密度が濃くなり、より集中的に学習したいという要望が高まり、シカゴのUICでの講義が次第に定着化していった。勿論、団員は毎年変わられるがそれまでの視察記録や見聞談を聴くことなどで、次の団の参加者はより期待するものが大きくなっていった。視察希望項目は、看護職養成と教育、看護サービスと管理、能力評価、リスク・マネジメント(危機管理)などに絞っていかれた。特に、幾度も挙げるように米国では、高騰する医療費を抑制することについて様々な挑戦が展開されていた。看護分野に於いても、Critical Path,  Primary Nursing,  Primary Health Careなどたくさんの革新的なサービスが大学病院や各地の保健医療事業体、訪問看護事業体などで行われていた。日本でも、医療費増大への対策が大きな課題となってきており、在宅看護というテーマについてもより真剣に考えていく必要があったのだろうと思う。当時からは20数年経た今、介護保険制度が導入されて10年余り、病院での長期入院が抑えられる傾向となってきている。今では訪問診療も普及してきており、一方では在宅看護もさらに重要さを加えてきていると思われる。

2筆者は、この視察団を担当する以上は単に添乗業務だけでなく、通訳はもとより、視察希望事項などテーマに沿って、コーディネートすることも大きな役割になっていった。UICを紹介していただいたオールソン博士、小野田先生、そしてプログラム全体について調整し、公衆衛生などを専門とされるマクエルマリー副学部長の存在は一層重要になっていった。 毎年、訪れる度に団員各位を紹介しながら、一方では、今年も来ましたのでよろしくお願いします、そんな気持ちで臨み、さらにしっかりやらなければ、と思いを新たにしながら回を重ねて行った。

一方で、視察訪問都市も、シカゴやニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスやサンフランシスコなどにとどまらず、首都ワシントンDCでは全米看護師協会はもちろん、フィラデルフィアやボルチモア、そしてコロラド州デンバーやオレゴン州のポートランド、ワシントン州のシアトルにある病院や訪問看護事業体も訪れた。1また、カナダのトロントではオンタリオ看護協会やトロント総合病院、マウントサイナイなど著名な施設も訪問した。 興味深いところでは、第3回目の視察団(91年)が南部のルイジアナ州でテルボンヌ総合医療センターを訪れている。ニューオーリンズから1時間余り、ミシシッピ川の河口近くバユウと呼ばれる低地の中心都市ヒューマ市(Houma)にある。この病院へのアプローチは今考えても大胆なものであった。いつもアメリカに行くときは全国紙の「USA  Today」 を拾い読みすることが多く、偶々見た記事の中に、この病院で行われている院内教育が高く評価されていると紹介されていた。それに深い興味を覚えて全社連の看護室にお話ししたところ、継続教育というテーマでこの病院を訪ねてみよう、ということになった。 そこで、紹介者もなく、新聞を見てとても感銘を受けましたので、ぜひ見学させていただきたいと手紙を書き、訪問受け入れをお願いした。 その結果、先方でも快く受けてくださることになり、当日、お邪魔したところ病院の玄関に、「Welcome to TGMC=ようこそテルボンヌ総合医療センターへ」と大きく書いた歓迎のボード(掲示)が貼られていた。Southern Hospitalityにとても感激したことを思い出す。 今回、この施設についてホームページを開いてみると、今ではニューオーリンズ都市圏の南側に広がる一帯の中核施設として一層発展していることがうかがわれた。

他にも特筆すべきは、アリゾナ州のフェニックスにあるGood Samaritan Medical Centerも数回訪れたが毎回大歓迎していただいた。ここでも、たくさんの忘れられない思い出がある。 このことや、UICでお世話になった方々のことなどを改めて書かせていただこうと思っている。

 

(資料 上から順に)

平成2年度(1990年)海外看護事情視察報告 (表紙)

ベス・イスラエル病院にて(ボストン)

マクドナルド・ハウス (ニューヨーク)

UIC看護学部 副学部長・教授 ベヴァリー・J・マクエルマリー博士

ようこそテルボンヌ総合医療センターへ(ルイジアナ州ヒューマ市)

 

(おことわり)

◎  看護事情等については、各団の視察報告なども参考にさせていただいています。

*  この時代は、看護婦という呼称が使われていたのでそのまま使っていることをご了承願います。

                              (2015/2/17)

小 野  鎭