2015.09.01 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅71「ボンに響け,歓喜の歌,そして 憧れのスイスへ!」

一期一会 地球旅 71

ボンに響け、歓喜の歌、そして 憧れのスイスへ!

演奏会が終わり、福音教会のホールで打ち上げと交流会が行われた。これも感動的であった。 最初に大正琴のメンバーがスタッフも交えて浴衣姿もすがすがしく日本のメロディを演奏して喝采を浴びた。コンサートでの緊張した思いから解放された団員は一気にはじけ飛んだようであった。華やかで楽しく、笑いとユーモアのある会話、頑張って覚えてきたドイツ語であいさつを交わしている仲間もあった。お琴のメンバーは先ほどまで着ていた浴衣を脱いでドイツ人の男性に着せたところ “やんやの喝さい”を浴びて踊り出していた。ビールやワインの勢いもあって一層にぎやかに友情の輪が広がり、ボンの夜が更けていった。
翌朝、ボンから直帰する合唱指導者などを除く多くのメンバーはリフト付き大型バス2台を連ねて、アウトバーン(自動車専用道路=高速道路)を快走、スイスのエンゲルベルクへ向かった。
車窓からは、どこまでも広い南西ドイツの緑野と遠くにはシュヴァルツヴァルト(黒い森)の丘陵地やその麓に広がる集落などが見え隠れしていた。ところが折角の美しい風景も団員にとってはほとんど無縁といった車内の様子であった。快適なシートにゆったり身を任せ、それまでの緊張感が緩んでこれから行く”憧れのスイス“に思いをはせてほとんどがいうところの爆睡状態であった。 やがてルツェルンから美しい湖岸に沿ってバスは次第に高度を上げていった。白銀を抱く山並みが見え隠れし、緑の牧場が広がり、大きなカウベルをつけた牛が草を食んでいた。
絵葉書にあるような風景が広がっていった。やがてエンゲルベルクの村、天使の山と名付けられたこの小さな村はティトゥリス山塊の麓にある。12世紀に起源のあるベネディクト派の修道院とその周辺に人口2,600人余りの集落が広がっている。農業と山岳リゾート地としても知られているが村はどこまでも静かで、清澄な空気と美しいたたずまい、そして咲き乱れる花々にボンで張りつめた思いに明け暮れていた団員は気分的にもすっかりリラックスしてこの村で4泊した。 ここでのハイライトは、ティトリス山上への周遊。山麓駅からチェアリフト、ケーブルカー、そしてロープウェイを乗り継いで小一時間、頂上は3289mであるが、Titlis 3020と呼ばれる終点駅に着く。広いテラスはほとんど万年雪に覆われているが、展望台はもちろん、洒落たレストランやトレッキング道、スキーゲレンデなどがあり、一年を通じて観光客やトレッキング、スキー客などでにぎわっている。途中のケーブルカー部分では、車両にうまく収まり切れない車いすもあり、レストランに運ぶ食材や飲料水など貨物を積載する業務用の箱型荷台があり、これに乗って移動するというハプニングもあった。スリル満点のひと時、モミやトウヒなど針葉樹林の間を快調に上っていった。次第に空気がひんやりして
来て、やがてスタント(2450m)に至る。ここから乗った大型ゴンドラはロットエアと呼ばれる丸い箱型、車内の床がゆっくり回転し、乗客は居ながらにして360度の雄大な風景を楽しむことができる。眼下には森林限界を超えた岸壁とその上には氷河がかかり、ところどころにクレバス(氷河の裂け目)がある。さらに白銀の山並みはまぶしさに目を開けていられないほどであった。そして、遥かに目をやると緑の谷間と湖水地帯が広がっていた。やがて、終点。ゴンドラを降りて、外に出ると思わず身を引き締めたくなる冷気であったが、壮大な風景にため息が出るほど。凍り付いた雪道で車いすを押したり、手を引いたりして全員が展望台に集合、目の前に広がる峩々たる山稜を前に大歓声が上がった。
これまでティトゥリスに来るたびにトイレにある車いすマークを見てきたし、ロープウェイやレストランなどでバリアフリー情報を確かめていた。 いつかは歩行障害のあるお客様にもこの雄大な風景をお見せしたい、そう思って様々な準備をし、苦労を重ねてきた。それがやっと実現した!それを思った瞬間、思わず胸が熱くなり涙が流れた。ボンのコンサートは素晴らしい歓喜で終わり、多くの人に素晴らしい感動をもたらしたと思う。そのあとで訪れたアルプスのいただきで上がった歓声、それを成し終えた達成感と充実感に自分自身は跳び上がりたいほどの喜びが湧き上がってきたことを思い出す。
スイスアルプスの絶景を堪能した翌日、今度は反対に下界へ降りて、フィアヴァルトシュテッテゼー(4つの州の森の湖=通称ルツェルン湖)を湖上遊覧して、ルツェルンへ向かった。湖面を渡る風は心地よかった。
一行の代表である姥山さんの笑顔がひとしお印象的であった。ボンでのコンサートを終え、“そして憧れのスイスへ”も好天に恵まれてみんなが心からエンジョイしておられる様子をご覧になり、きっと安堵されたのであろう。3年前、初めて東京文化会館で第九コンサートが行われた後、いつかベートーヴェンの生誕地を訪れて、 コンサートをおやりになりませんか、と持ち掛けたうえでの催しであっただけにそれが実現できたことが嬉しかったし、約束を果たすことができて本当に良かったと思い、感慨深かった。湖を渡る船の上でみる姥山氏の笑顔が一層晴れやかに見えた。やがて船はルツェルンに着き、一行は旧市街を散策したり、ショッピングを楽しんだり、ロイス川に浮かぶハクチョウを眺めたり、三々五々楽しいひと時を過ごした。
そして、エンゲルベルク4日目の夕食はスイスの民俗ショウのアトラクションで打ち上げ。 ヨーデルグループの素晴らしいハーモニーやアルプホルンの音色に酔いしれ、アコーディオン、クラリネットとカウベルのパーカッションが奏でる愉快なメロディに思わずつま先でテンポをとっているうちに次第にみんな立ち上がって踊り出した。老いも若きも、車いすの仲間もみんながダンスに興じ、陽気な笑いと明るさ、そして喜びに満ちたスイス最後の夜が更けていった。
  資料(上から順に ボンに響け歓喜の歌、そして憧れのスイスへ  想い出の記より借用)   大正琴の演奏 指揮トノ・ヴィッシンク氏と共に、 アルコールも入って・・・にぎやかにボンの夜が更けていく。 タンポポとすずかけの散歩道、みんな盛装して大教会のミサに行った。 ケーブルカーでは、貨物用の荷台に乗ってスリルを味わった。 湖上遊覧 姥山さんの笑顔 アルプホルンの音が素晴らしかった。 エンゲルベルクの夜、笑った、歌った、踊った、泣いた、そして食べた。 この雪の上にみんなを連れてきたかったと小野さんの目に涙(写真に付されたメモ)

(2015/8/31)

小 野  鎭