2016.02.03 小野 鎭
一期一会地球旅93 「旅行業専門学校にて その5」

一期一会 地球旅 93

旅行業専門学校にて その5   バリアフリー旅行術 (2)

 1年次の大きなプログラムの一つに国内研修旅行があった。学生4人に筆者が随行、特別講師として上山のり子氏に同行いただき、学生はそれぞれ「添乗業務と介助を行うこと」、「旅行期間は2泊3日で、旅行代金の見積もりを立てて全体としての企画書を作成し、学校の承認を得ること」が必要であった。企画書を作成すると共に、研修旅行をバリアフリー旅行術の一部としてフルに利用することを目指した。 
この研修旅行には、バリアフリー旅行について学校としてもさらに認識を深めるために教務部職員の同行があり、グループ全体としては7名であった。とは言いながらも、少人数であるため団体割引などは期待できない。新幹線、アクセシブルホテル、古都、テーマパークなどを主たるアトラクションとして、京都2泊3日を旅行本体とすることでの基本案がまとまった。 旅行手配は、大手旅行会社からRail & Hotelの募集型企画旅行をベースとして、これにリフト付き大型タクシーによる半日観光と名物料理など夕食2回を組み込んだプランでの企画案がまとまり、学校の承認を得た。学生たちが旅行会社のパンフレットやインターネットをフルに活用して情報収集をする探求心の旺盛さと積極的な活動に、まぶしさを覚えるほどであった。 こうして2005年12月7~9日、2泊3日の京都、
中の一日は大阪のユニバーサル・スタジオ(USJ)へ出かけることになった。出発は、東京駅の丸の内南口にある待合室で待機することから始まった。「新幹線で京都へ行きたいので乗車までの支援をお願いしたい」と電話で申し込むことになっていたが大阪方面へ行く場合と仙台などへ行くときは、電話番号が違っていた。つまり、JR東海とJT東日本で、東京駅の中でも業務が分担されていることが興味深かった。プラットホームに行くまでの通路は一般乗客でにぎわっている駅構内ではなく、はるか昔からある業務用の通路を通ったが、薄暗いレンガとむき出しのコンクリートの床、ひんやりした空気の中の数分間は普段は知らないだけに面白い経験であった。11号車が車いすの乗客には都合が良いとのことでこれを予約し、多目的室も経験として使ってみた。京都駅では、下車したところとエレベーターの位置はかなり距離があったが、スムーズに八条口へ出て、リフト付きジャンボタクシーの運転手と会うことができた。添乗と介助担当はそれぞれ学生4人が交互に動くこととして日程表にも書き込んである。少人数であり、
荷物はスーツケースを個々に持っているので毎回数えることもないほどではあるが、添乗業務ではその都度人数と荷物を数えることが鉄則、トイレの案内やガイド(今回はドライバー)との打ち合わせなど細かいことがたくさんある。いささかぎこちないが一生懸命にやっている学生たちが微笑ましかった。自分は、国内での添乗経験は少ないが海外はこれまでに数百回やってきているだけについつい手や口を出しそうになるが、そこは我慢して付いて行くことに徹した。 初冬の京都では淡い午後の陽射しを浴びて
金閣寺や龍安寺を回った。ドライバーは慣れたもので各所を案内し、学生たちが砂利道や境内の段差で苦労していると手伝ってくれ、手際よくリードしてくれた。天龍寺の広い境内は、紅葉が地面いっぱいに散り、緋毛氈のような美しさであった。高瀬川近くのホテルでは、車いす対応の部屋を一室確保してあったと記憶しているが全員が女性であったので、筆者は個人的には見学はしなかった。部屋は狭かったが京都市内の中心部に位置しており、値段からもそれは止むを得なかったかもしれない。翌日は、低床式の市内バスで京都駅ヘ行き、大阪へ出てUSJを楽しんだ。園内は、車いすのお客様への対応もよくできており、アトラクションも豊富であったが、この日は冬風が冷たく、写真を見ると寒さの中で動き回ったことが思い出される。
3日目は、法然院や銀閣寺、哲学の道など東山の麓一帯を散策し、午後、京都を発ち、帰京した。学生たちは新幹線や関西のJRや地下鉄など公共交通機関、タクシー、宿泊、食事、名刹や大型テーマパークでの遊覧など盛りだくさんのプログラムを楽しみ、実地に案内し、お客様の介助をすることなど盛りだくさんの経験をすることができた。そして、来年はいよいよ海外研修へ、と期待がさらに大きくなっていった。 2年次には、前期で障がい者の日帰りツアーを計画し、それを実行することを予定しているがその前に、障がいのある人たちについて理解することが必要であった。そこで、さいたま市にある地域福祉事業体の協力を仰いだ。NPO法人ビーポップでは、障害児・者の余暇支援や緊急一時の預かり、障害福祉分野における先駆的活動を実践しておられる。代表の湯澤剛氏と障害者の社会参加をすすめる会の代表小林佐和枝氏とは10数年のご交誼をいただいていた。地元で活動を始められて、数年経った頃であった。知的障害や肢体不自由のある青少年たちが午後のひと時、ゲームをしたり、訓練と遊びを兼ねた水中プログラムなどを通して障害者の自立を促し、どんな人も幸せを追求していい、笑ってこその人生、として活発な活動をしておられる。UT学科の紹介と学生たちの実習を受け入れていただけることになり、霞ヶ浦へ出かけて湖上遊覧などを楽しむことを計画した。 霞ヶ浦では、もっと優しい旅への勉強会のメンバーである秋元昭臣氏にお世話になった。氏は、京成ホテルグループの企画部長であったが、宿泊部門や付属施設のバリアフリー化に力を入れてこられた。バリアフリー基礎では、ユニバーサルデザインをテーマとして、京王プラザホテルを見学させていただくことが多かった。
駿台の卒業生が入社していることと、80年代からすでにバリアフリー化に力を入れてこられたという背景もあり、各クラスが毎年、こちらを見学させていただいていた。一方、秋元氏は、様々な障がいのある宿泊客の要望に応えることを目指して手軽にできるバリアフリー化とお客様サービスを積極的に広めることに力を入れておられ、千葉県や茨城県の宿泊関係団体でもバリアフリー化について積極的に呼びかけている人物でもあり、駿台の「基礎」の授業では講師として幾度も招来していた。京成ホテル株式会社は、平成15年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン化推進功労者として、内閣総理大臣賞を受賞しておられる。京成グループの一員であるマリーナでは、
バリアフリー化した遊覧船や「アクセスディンギー」と呼ばれるユニバーサルデザインの小型ヨットを浮かべるなど意欲的に取り組んでおられて好評であった。このヨットは、「まったく経験のない人でも、3分間の説明でセーリングできるように工夫され、設計され、建造されている」、そして最も肝心な安定性も抜群ということで障がいある人たちの利用も多かった。 2006年2月12日の寒い朝、さいたま市のビーポップに集まり、そこから霞ヶ浦へ出かけて秋元氏に歓迎され、早春の陽射しがまぶしく照り映える湖上でアクセスディンギー試乗、午後は遊覧船で湖上観光、
追いかけてくるかもめにエサをやるなど吹く風は冷たかったがとても温かく楽しさいっぱいの一日であった。こうして障がい者への理解を深めることに力を入れながら2年次に進級して、バリアフリー旅行術はいよいよ本番、日帰り旅行の計画と実行へと進んでいった。また、この時のお出かけプログラムがビーポップでは好評となり、いまでは年に数回「スキップ・ビーンズ」として日帰りの遊覧プログラムが組まれているそうである。   (資料  上から順に) 国内研修旅行 旅のしおり (2005年12月7~9日) 東京駅 丸の内南口待合室 (2005/12/7) (車いすご利用の方は、JR東海とJR東日本 それぞれの電話番号が書いてある) 東京駅 業務用地下道 (2005/12/7) 京都 天龍寺境内にて (2005/12/7) 大阪 ユニバーサルスタジオ(USJ)にて (2005/12/8) 霞ヶ浦 アクセスディンギーへ向かう (2006/2/12) アクセスディンギー (同上) 霞ヶ浦 ビーポップ&秋元氏とともに(同上)  

(2016/1/31)

小 野  鎭