一期一会地球旅94 「旅行業専門学校にて その6」

一期一会 地球旅 94

旅行業専門学校にて その6  バリアフリー旅行術(3)

2年次前期での大きなプログラムは、バリアフリー旅行術の実践、一日お出かけプログラムの企画立案とその実行であった。2月に霞ヶ浦で障がい者の方々にアクセスディンギー(2人乗りヨット)や船での湖上遊覧を楽しんでいただくプログラムを経験していたが、今度は自分たちで最初から最後までを通しての活動であった。お客様としてご協力いただいたのは今回もビーポップの方々であった。

一方、2年前期は学生にとっては最大の山場である就職活動(就活!)がある。入社希望先への入社試験受験申込み(エントリー)と実際の受験、面接へと続き、公欠も見られるようになっていた。旅行系学科全体では、早くも内定通知をもらって歓声を上げる学生もあり、その一方で意気消沈している顔もあり、悲喜こもごもであった。担任としては相談に乗り、激励して送り出す日々、何とか期待通り進んでほしいと願うことしきりであった。

5月の連休が明けて間もなくビーポップに出かけて午後1のプログラムに参加、皆さんのゲームに加わって汗をかき、親しくなることから始まった。「この方々に喜んでいただける一日お出かけプログラムとしてはどのような趣向が良いのだろう」と考えさせることであった。今回は、メンバーのH氏とK氏がお客様である。具体的なプラン作成のためのヒントを見出すために、湯澤代表の指導で「楽しいこと?」で思い当たる言葉をみんなで書きだした。いわば、ワールドカフェ方式のグループワークであったと思う。57の言葉が壁に張り出された。「楽」という文字を真ん中に置いて周りに「食」「路」「外」「醍醐味」「希望」「クライマックス」そして、これに「仲間」「出会い」「笑い」「おしゃべり」「音楽」などのキーワードを配して、これを基にして一日のお出かけプランを考えることになった。二人のお客様は、簡易電動車いすの使用者であるが、今回は手動式を使い、学生がそれぞれの方について車いすを押し、一日の動き(ADL)の中で必要な介助をすることになっている。時期は7月上旬の日曜日を充てることになっている。梅雨時であるので雨天でも楽しめるプログラムも含める方がいいのではないか、そんなことも考えてのプラン作りであった。そして、このプログラムは、みんなで楽しもう、ということで「エンジョイ♡(ハート)」と名付けられた。学生たちは、それぞれに考えて6月中旬までに案を練り、それを提示していずれかに決めてもらい、そのプランを実行することになった。

就活と通常の授業、それにEnjoy Heartのプランを考えなければならないことは4人にとってはかなり大きなプレッシャーであったに違いない。授業では、週に二日、2コマ続きと1コマつまり毎週270分あったがフルにこれを充てて作業させ、6月14日にそれぞれの案をお客様に説明することになっていた。やがて4人からそれぞれに素案が提示された。ジブリの森と吉祥寺散策、2タイムトリップ:浅草~お台場、食べ歩き下町谷根千、そして、せせらぎBBQ(バーベキュー)であった。各自が工夫した地図やイラストなどを添え、趣向を凝らしたプレゼンテーションは興味深いものであった。それぞれに一長一短あり、バリアフリー状況などはこれから調べるといったところであった。数日後、お客様から第一希望がタイムトリップ、第二希望をジブリの森として欲しいとの連絡があった。早速、次の週の授業を下調べに充てて各地を手分けして回った。その結果、行程は、南浦和~秋葉原~浅草~お台場へという基本的なコースが決められた。いずれも各駅などのエレベーターや所要時間と乗換の容易さなどを勘案した結果であった。目玉は、浅草寺参拝と仲見世などの散策、水上バス「ヒミコ」での隅田川遊覧とお台場での午後のアトラクションであった。

準備は時間が経つにつれて熱心さが加わり、なかなかのものであったがプラン実行は、実体験が無かっただけにその準備には不十分さが散見された。しかしながら、彼らから相談があるまでは、じっと見守ることに徹した。自分たちがプランを確立し案内し、介助を行い、会計も行うなどそれぞれに業務を分担し、途中で交代するなどの担当を決め、これまで調べてきたバリアフリー状況やアトラクションなどについて最終調整を行った。前年冬の国内研修では、自分たちの旅行として2泊3日、特別講師の同行があったが今回は計画立案からお客様を案内し、介助や会計も伴うなどさらに複雑な内容が含まれていた。今回のグループは、こじんまりしてはいるがすべて自分たちが運営しなければならないという使命感と責任感は前回よりはるかに大きく意識していることが窺えた。

こうして7月2日、エンジョイ♡(ハート)は、いよいよ当日になった。JR南浦和駅8時30分出発へ向けてKさんは武蔵浦和を8時15分に出発される。学生たちは、3つに分かれていた。一人は武蔵浦和、もう一人は南浦和、そして二人が浅草へ直行して水上バス「ヒミコ」の当日団体券の購入担当。筆者自身も前から、後ろから、3横から学生たちの動きを見ながら万一の事故発生防止と撮影や記録などを担当した。実は、ほかにビーポップの覆面撮影隊としてスタッフ数名がこの日の動きを追いかけられた。4人は、少々危なっかしいところはあったが予定通り進み、秋葉原~浅草、浅草寺から水上バス、そしてお台場に着いた。ときどき歓声を上げたり、車いすを押しては掛け声をかけたり、飲み物や食事の介助、トイレでは、筆者がお客様の支援をした。そして、遥か後ろを見ると覆面撮影隊がにこにこしながら着かず離れず、カメラで追っている様子が感じられた。こうして、お台場のアトラクションが終わり、初めてビーポップのスタッフが合流して大笑い、4そして全員でエンジョーイ!と大歓声が上がった。

彼女たちの報告書は筆者の宝物の一つとして今も大切に保存しているが、今もそれを読み返すと胸が熱くなる。

今回初めて一つの旅行を企画、プレゼン、事前準備、実施とやった。一年間学んだとはいえ、分からないことだらけでいっぱいだったことが正直な感想。「車いすだから」だとか「ここはエレベーターがないから」だとかを深く考えずに企画したが意外にどうにかなるものだと思った。 (中略)  学んだことや反省点をここにすべて上げることはできなかったが、とてもいい経験をさせていただき感謝している。途中で何度も投げ出したくなったが、旅行実施まで持って行けたことが嬉しい。納得いかなくて嫌になったり、苦い思いをたくさんしたが、KさんやHさんの思い出に残る旅行になったのならば成功だとおもう。(学生N)

私にとっては、旅行当日よりも前日の方が戦いだった。あまりにいろんな人からの情報が携帯に一気に集まってしまったため(当日の質問・不安含め)、脳がショートしてしまった。誰がどこにいつ集まるのか、誰を待っているのか、別動隊は何をしているのか、本当に泣きそうだった。約10名の当日の動きをシミュレートして大混乱を起こし、頭を抱えた。こんがらがった糸を解きほぐすのに小一時間はかかったと思う。夜は眠れなかった。緊張で。私にとって今回の『実施』部分は、前日に集約される。(略述)  (学生H)

バリアフリー旅行を学んでいるといっても、まだまだ頼りない私たちにすべてを任せてくださったB-POPの方々に感謝します。今回のエンジョイハートのプログラムから得た反省と様々な思いは大変貴重な経験になりました。旅行業に携わるようになってもこの経験は折に触れ、思い出すでしょう。このプロジェクトを通じて、階段を一つ上がれたように感じました。でも、まだまだです!!  これからもご指導をよろしくお願いします。(学生H)

今、これだけ世間では、「バリアフリー」「ホスピタリティ」などと言っているのに、本当にそのような意識が根付いている社会だとは全く思えない。自分が楽をする方法、それだけを追求し、相手のことを思いやる気持ちを忘れているのではないだろうか。今回の旅行でそのようなことを感じることは多々あった。物珍し気な目や、少し迷惑そうな顔。なぜ、笑顔で気持ちよく譲ることができないのだろうか?そんなに急いでどこに行くのだろう? 社会の仕組みが出来てきても、人の意識がそこについてこなければ意味が無い。(学生M)

そして、協力して下さったB-POP様の会報 B-POP Newsには、次のような記述があった。

ココロ・フルエタ Enjoy ♡

仲見世通りをゆるゆる進んで水上バス乗り場へ。待ち時間に「宇宙戦艦ヤマト」のテーマを歌って過ごし、乗船。かの松本零士先生デザインのヒミコ号で隅田川クルージング。お台場のファッショナブルなビルでインドネシア料理を堪能、仕上げは大観覧車から東京湾を展望。情緒あふれる下町から現代の東京へ、駆け足でのタイムトリップでした。(中略)

実習の目標は、「共に楽しむ」ことでした。学生さん達には、介助者・顧客・ヘルパー云々と立場(と責任)に束縛されて得られる「評価」より、様々な視線を共有できる体験をしていただきたかったのです。当日の彼女たちは、添乗員でもあり、ヘルパーでもあり、友人でもあり、実習生でもあり、やりにくい部分や悩むこともあったでしょう。しかし、全員が楽しかったといってくれました。 卒業後も、たくさんの人に楽しい旅を提供してください。お疲れ様、素敵な一日をどうもありがとう!!   (B-POP News  Vol.37)

四人の学生の報告書を読むと、この実習を通して多くのことを学んだであろうことが随所にうかがえる。君たちが、実際にツーリズム産業に就いたとき、この経験からプロとしてさらに多くのことを学び、創っていくための動機づけとして欲しい。ここまで挑戦し、運んできた君たちに大きな拍手を送ります。

(報告書 後記 2006年9月24日 UT学科長 小野 鎭)

5

 

(資料 上から順に いずれも2006年当時)

午後のプログラム Tam Tam Baloon お客様との顔合わせ (5月14日)

お出かけプログラム 4案についての説明 (Presentation 6月14日)

エンジョイ♡ 浅草寺境内散策 (7月2日)

Enjoy Heart報告書 (9月末)

Enjoy ! (お台場にて 7月2日)

(2016/2/8)

小 野  鎭