2016.02.17 小野 鎭
一期一会地球旅95 「旅行業専門学校にて その7」

一期一会 地球旅 95

旅行業専門学校にて その7  バリアフリー旅行術(4)

後期が始まり、就職内定者の写真と会社名が校内の掲示板に貼り出され始めた。晴れ晴れした顔がある一方で依然として厳しい顔があり、担任としては気の許せない日々である。第1志望先からの返事がまだ“待ち状態”で第2希望の会社から先に内定通知が届くことがある。これを受けるかどうかは、学生にとって大問題! 受けるか敬遠するか、もし、遠慮した後で第1志望先からも不幸な結果が届くとこれは破壊的状態に陥ってしまう。ある学生は、神仏に祈りながら第2希望先を断り、数日して念願の会社から内定通知を得た時の彼女の誇らしい顔、そしてホッとした様子はそれまでのどの時よりも輝いて見えた。 後期のもう一つの大きなプログラムが海外研修。学生4人に加えて
特別講師として上山のり子氏に同行いただき、これに筆者が随行、総員6名であったが単体としては、旅行代金が割高になる。そこで、トラベル学科と合流して旅行系学科全体としてイタリアのローマに行くことになった。旅行期間は、4泊6日。この場合、中間で移動して2都市を訪ねるプランも検討されたが、一都市に絞ってじっくり見学することを選択した。滞在中は市内見学と現地手配会社のローマ支社訪問、テーマを絞って見学、最後の一日はフリータイムとすることになった。今回の旅行業務は、受注型企画旅行として大手の旅行会社に委託し、これに専任の添乗員が付いた。学生は、プロ添乗員の助手として実務を経験する。UT学科としては、車いすのお客様の同行介助、旅行全体においてバリアフリー観点から市内視察やホテル、公共交通機関のサービスを観ること、このほかに各自がテーマを自由に選んで滞在地ローマそしてイタリアを学ぶことにした。ほとんどの学生が海外旅行は初めてであり、未知の国への期待は大きかった。昔と違って、ガイドブックやインターネット、
テレビの旅番組などで豊富な旅行情報は溢れていた。それらを得ることはたやすく見えたが、いざ自分たちが出かけるとなればさらに真剣さが増す。それだけに現地で感じた歓びはひとしおであった。UT4人のレポートはいずれもとても興味深いものがある。 H学生は、「イタリアのグルメ」と題して掘り下げている。 「イタリアで私が訪れたのはローマとフィレンツェ。そこで、この二つの町での食文化についてまとめてみようと思う。 『ローマの食文化』 ローマはラッツィオ州の州都、ローマっ子ご自慢の味は、アッキオ、生後一週間から1ヶ月の仔羊のロースト。かつてはカーニバルの
ご馳走だったとか。そのほか、サルティンボッカ、アマトリチャーナ風パスタ、内臓料理、カルチョフィ料理と名物は多い。ティレニア海の幸も多く、マッツァンコーレという車エビの一種のグリルも有名。また、東京で各地の料理が味わえるように、ローマでもいろいろな地方の味を楽しめる」 そして、これらの料理についての解説が続き最後にマッツァンコッレを紹介している。 「私たちが味わったのは、スカンピのグリル。スカンピとは日本名であかざえび。体調15~20㎝、日本では長崎沖や相模湾で獲れるが一般の魚屋にはまず並ばない。背開きにしたスカンピに塩、コショウし、オリーブオイルを温めたフライパンで焼くだけ。これが最高に美味しい!!」 そして、フィレンツェの食文化とつづく。ここまでくると、これは立派なグルメの紹介、旅行案内にも加えられそうな楽しい話題が綴られている。H学生自身、食道楽では人後に落ちないであろう。筆者がローマで案内した「グロッテ・デル・ポンペイオ」はかなりかなり気に入ってくれたらしい。このレストランは、古代ローマ時代にあのカエサルがアントニウス一派に殺されたといわれるポンペイ劇場があった
場所だとか、一帯は今では下町風の雰囲気が漂っている。。 「先生に連れて行っていただいたローマのリストランテは、私がイメージしていた通りの雰囲気のある店だった。前菜で出たキッシュはしっとりした美味しさ、スカンピのグリルはホントに美味しく忘れられない味になった」 それだけに、ホテルで最後に味わった夕食のひどさには参ったとある。 「ホテルでの最後のディナーを楽しみにして、フィレンツェを後にしたが、このディナーのひどさには参った。ホテルに料理人はいないのだろうか?」 旅行の手配はこれを取り扱った旅行会社から委託された現地手配会社が一定の条件を基にして食事も準備したであろう。この時は、旅行代金がかなり抑えられていたことが最大の要因だとは承知しているが、それにしても気の毒な内容であった。自分が現業当時に常々心掛けていた食事とは大きな違いがあり、改めてホスピタリティとは?を考えさせられる何とも後味の悪いものであった。妙なところで、他社で準備された団体旅行のある一面を見たような気がした。 N学生は、コロッセオについての感想を述べている。 「コロッセオについて調べてまとめた。写真でしか見たことのなかった巨大な遺跡を間近で見た時の感動は言い表すことができない。遺跡に特別興味があったわけではないが、目の前にコロッセオがあると思った時、思わず涙が流れそうになった。『本物だぁ!』と単純にそれだけを感じたが、遥か昔、機械もない、車もない時代に
作られたものだと思うと興味が湧いてきて調べることにした。調べてみるといろいろなことがわかって面白かった。他の国にも同じような円形闘技場があることに驚いた。フランスやチュニジアにある闘技場は現在でも劇場などとして利用されているという。1~2世紀に造られた建築物が今まで残っていること自体すごいと思うが、コンサートなどにも使える状態で現存しているなんて信じられない。昔の人は、今の建築技術よりも遥かに素晴らしい技術を持っていたとしか思えない」 (中略) 「ローマのコロッセオ・・・あの巨大な闘技場に日よけ用に布を張る設備があったことや競技場に水を張って海戦を模したものも上演されていたとのこと、時代を経て巨大な石の構築物は取り壊されて他の建築物(サンピエトロ大聖堂など)の建材として使われたとか、見ただけではわからない事実や歴史を知ることができて良かった。良かったと思うと同時にもっと勉強してから行けば良かったと後悔もした。知識を持ってから行くとその観光地や料理、文化・・・多くのものを倍以上に楽しめると思った。コロッセオの中に入れなかったことが心残り。またイタリアに行く機会があれば絶対に中に入るのだと誓った」と結んでいる。 初めてのイタリアへの旅行と古代ローマを代表する建造物の一つであるコロッセオを見上げたときに感じたであろう感激、そしてそれについてもっと知りたいという率直な感想が述べられている。卒業して彼女は大手旅行会社に入社、あれから丸9年が過ぎようとしている。今では職場で大活躍しているらしい。初めてイタリアにお出かけになるお客様には自らの体験を思い出しながら旅行計画のご相談をお受けしているかも知れない。 いずれのレポートからもこの旅行で味わった素晴らしい感動と興奮が蘇ってくる。ほかの二人については、次号で紹介させていただきたい。 (資料 上から順に。 いずれも2006年12月) 海外研修旅行 携行旅程冊子 レオナルド・ダ・ヴィンチ・ローマ国際空港にて 朝食風景(ローマ・リージェントホテルにて) 夕食後の散歩(ナヴォーナ広場にて) コロッセオにて

(2016/2/15) 小 野  鎭