一期一会地球旅97 「旅行業専門学校にて その9」

一期一会 地球旅 97

旅行業専門学校にて(その9) その後

2007年3月にユニバーサルツーリズム学科第1期生としての17UTは旅立っていった。そして、4月には、18UTが進級して2年次になっていた。クラス担任は別であったが、バリアフリー基礎とバリアフリー旅行術は専門科目として受け持った。いずれの科目も2年目とあって、手探り状態で始めた時とは違って少しだけ自信もついてきたし、一方で反省点もあり、そのようなことを意識しながら精度を高めていくことを自らに言い聞かせた。

バリアフリー旅行術の実践では、毎年B-POPさんにご面倒をかけるわけにもいかないので、自分自身が非常勤で勤務して法人業務などを担当していた社会福祉法人地球郷(ゆきわりそうグループ)に相談し、協力をいただけることになった。様々な種別のサービス形態と対象者があったが、今回は、多機能型(日中活動事業)生活介護・就労継続支援B型として位置づけられているプログラム「ポシェットとドンマイ」で利用者(メンバー)は1種1級の重度障害のある人たちが多かった。 法人の案内を見ると、「共に働き、共に生活する初めての試み、まず、第一にあいさつできるかな? 一人でここまで来られるかな、トイレの儀式は全部OK? では・・・ 社会に出るための訓練しよう!」と紹介されている。

18UTは、男子1名を含む5名、ゆきわりそうグループ全体で画像1行われる恒例の皇居夢伝に参加して、歩行介助や車いす移動での支援などをすることでまずメンバーの方々との顔合わせが始まりであった。西武池袋線池袋から二つ目の東長崎の住宅街の一角にある「ポシェット&ドンマイ」で午後のプログラムに参加することでメンバーに馴染んでいただけるように、そして、学生たちに重度障害のある人たちについて理解させることが肝心であった。今回のお出かけプログラムでは、「水族館などで楽しむこと」がテーマとして提案され、学生たちは、東京都内または近辺の水族館とそこまでの往復所要時間や楽しさ、食事、経費などをそれぞれ基礎調査して、5つのプログラムを提案した。

結果として、「品川アクアスタジアム」に行くことになった。前年のEnjoy Heartと同様の趣旨であったが、今回は、メンバーが15名で重度障害のある方が多いこと、スタッフも応援者として参加されるということで総勢28名という大きなグループであった。西武池袋線とJR山手線での移動、障害者割引、品川駅での乗り降りと繁華街、アクアパークのアトラクション、昼食はホテル内のバイキング料理という趣向、タイトルは、「Pirates of Pochedon パイレーツ オブ ポシェドン」と名付けられた。これを計画し実行するにはかなりの知識や交渉力、案内のテクニックなどが求められる。金額もかなりの額になるので学生の緊張度は相当なものであった。入念な下調べや事前調査と打ち合わせなどで当日は、無事、この大型の日帰りプログラムが実行された。 画像2実は、数日前から、台風接近のニュースが伝わっていた。当日、実行するかそれとも中止するかの判断がむつかしかったし、学生たちは施設のリーダーと打ち合わせするなど最悪の場合も想定していた。幸い、天の恵みであろうか、台風は進路がそれたので予定通り実行できたのは幸運であった。

学生の一人の感想に次のような記述がある。

「なによりポシェドンの皆さんには、本当にありがとうの気持ちでいっぱいです。今までヘルパーの資格を取るための研修などの経験をしてきて、一番感じたことが利用者の方々への接し方についての難しさでした。今回、お世話になった皆さんは、そのような不安を忘れさせてくれるような皆さんでした。言い方があまり良くないかもしれませんが、障がい者という目で『ポシェドン』の皆さんと接しているのではないということを私自身とても強く感じました」とある。5名ではあったが、今まで重度障害のある人たちについて接したことも無かった若い世代が日帰りプログラムを通して感じたものは大きかったであろうことが嬉しかった。

18UTの海外研修は、その年の冬、ホテル学科と合流して米国ロサンゼルスへ行った。今回も特別講師として上山のり子氏に同行していただいた。4泊して、ハリウッド地区にあるホテル見学や広大なロサンゼルス都市圏の交通機関や公共の建物をバリアフリーという観点からはとてもよく整っている反面、大雑把なところも感じたようである。「バリアフリー面ではハード面・ソフト面、特にソフト面が発展していて、“感動”した。街を歩いていても画像3ドアを次の人のために開けてくれて待っていてくれるし、ちょっとした思いやりに会うことが多かった。上山さんと一緒に歩いてみると、サッとドアをあけてくれるのはあたりまえ、乗り物では座席を空けてくれるなど、一年前に実習でバスに乗ったときのあの“冷たい視線”を見ることは一度もなかった・・・ 上山さんがおっしゃっていた通り、日本ではつい『Sorry』というけれど、『Thank you』 という一言でおたがいにhappyな気持ちになれた気がした。日本でも『Thank you』 『You’re welcome』が当たり前に交わされる素敵な国になってほしいな、とふと思った」とある。一年前とは、バリアフリー基礎の授業で、巣鴨から池袋へ行くバスの中で感じる乗客たちの視線を改めて思い出したということであろう。この感想を書いていた学生Kは、JR東日本に入社、数年後にもらった年賀状には、正社員としてパスしました、と嬉しい添え書きがあった。

こうして、18UTも2008年に卒業していったが、平成21年度(2009年度)以後はUT学科を目指して入学する学生の数が伸びず、エコツーリズムとあわせてEUT(環境福祉学科)というクラスへと変更された。しかし大学の専門学科ではなく、旅行業専門学校としてユニバーサルツーリズムやエコツーリズムを標榜して学科を運営していくことにはむつかしさがあり、次第にEUT学科としての学生募集は行われなくなった。近年では、観光庁がユニバーサルツーリズム普及へ向けて活発に活動するなど、国としても観光立国推進基本計画の中に織り込み、旅行業界としても様々な取り組みが開始されている。旅行業専門学校として、旅行業の初歩から始めてわずか二年間の授業と実習で、高齢者や障がいのあるお客様の旅行や外出支援ができるような知識と技術を習得できるような生易しいものではあるまい。しかしながら、少なくとも、超高齢社会がいっそう進展する時代にあって、旅行業界や観光産業においてはバリアフリー旅行とユニバーサルツーリズム普及の観点からの人材育成が強く求められていることは間違いないと確信している。数日前に、JTB総合研究所主催でユニバーサルツーリズムシンポジウムが開催され、多くの参加者が熱心に聴いていた。時代が確実に変わってきていることを感じたような気がする。

ところで、2009年3月に旅行系学科長を退き、以後は画像4非常勤講師としてバリアフリー基礎を担当する一方、2007年から開設した「世界遺産」を受け持っていた。教える以上は、まず自らが学ぶことが先であり、NPO法人世界遺産アカデミーの研究員氏に来訪いただき、種々指南頂いた。こうして、教える一方でまずは世界遺産検定受検が先決、泥縄式の勉強ではあったが、2009年12月に3/2級と受かり、その後、1級の認定を受けることができた。留学生クラスでもこれを講じることになった。日本の学生は、就活の上からも世界遺産検定の3級あるいは2級といった認定を受けることを目的とすることが多いが、留学生は将来的には自国に戻って旅行業に就きたいという希望が多い。そのためにも世界遺産について画像5知っておきたいという、いわばより実践的な希望が多かった。留学生は、韓国、中国とりわけ福建省、タイ、ベトナム、カンボジア、スリランカ、ネパールなどからの学生が多かったので、それぞれの国にある世界遺産について一層関心が高かったことは当然である。また、日本語が必ずしも得意ではない学生も多く、ネパールやスリランカの場合は、英語の方がより理解しやすい、加えて地名や施設名など固有名詞は中国語(簡体)もあった方がいい、ということで日中英文を加えたパワーポイントの資料を作るなどの面倒もあったが、理解度はやはり高かったように思える。

その後、マイスターとしても認定され、今は、世界遺産アカデミーの認定講師として、別の専門学校などで世界遺産検定対策講座への派遣される機会も得ている。2004年6月から6年9カ月、駿台トラベル&ホテル専門学校でのユニバーサルツーリズム学科開設と運営、そして講義を受け持ったことについての感想をひとことで言えば、「人材育成の大切さを知ること」と、「教えることは学ぶこと」であった。若い世代から得た多くの刺激も有難かったと感謝している。

 

(資料 上から順に)

ゆきわりそう 皇居夢伝に参加 (2007年4月)

Pirates of Pochedon 品川アクアパークにて (2007年7月)

18UT 海外研修旅行 ロサンゼルスにて (2007年12月)

世界遺産入門 資料(留学生クラス用 日英中語で作成 2009年10月)

 

 

(2016年2月29日)

小 野  鎭