2016.05.10 小野 鎭
一期一会地球旅107「良き仲間たちとの思い出 高校の同期生の旅行 その10」

一期一会 地球旅 107

良き仲間たちとの思い出 高校の同期生の旅行 その10 

(その後)

「ハプスブルク家の栄華の跡を巡る旅」は好評のうちに終了した。参加した20数名のメンバーは、写真を見直したり、テレビの旅番組を見ては自分たちの旅の思い出を懐かしんだことであろう。 還暦記念欧州旅行に始まり、タイ、京都~城崎への国内旅行、そして2006年のこの旅行と4年間に4回、つまり毎年一度、高校時代の若さを取り戻したように海外、国内への旅を楽しみ、引退後の日々を記念するように一つのメルクマールを作ったのかもしれない。そこには同期会代表有松氏の存在が大きかったし、毎回の旅行に参加したメンバーの協力と支援があり、団員相互に高校時代そしてこれまでに様々な交流と友情があっていずれも有終の美を飾ることができたのだろうと思う。自分自身は毎回の旅行計画の立案と準備、添乗、そしてその仲間の一人として楽しませていただくことができた。思い出深い一コマ一コマを作ることができたことは光栄であり、参加者各位に対して感謝の気持ちがいっぱいである。いつしか65歳を過ぎ、同期会としてそれ以後の旅行は企画せず、いわばこの時の旅行が仕上げとなった。 ところが、翌年になって、それまでの旅行を契機として盛り上がった旅行好きの数人からまた欧州のどこかへ行きたいね、などの声が寄せられ、年賀状にメモが添えられたりしていた。そこで並々ならぬ旅行愛好家であり、人望も厚い与田氏と相談し、彼を企画代表として筆者が業務取扱として新たなプランを考えることになった。こうして生まれた次の計画が北欧であった。世界でもトップクラスの福祉国家がつらなる北欧は自然との共生やエコ社会でも知られている。そんな思いもあってスカンジナビア3国にフィンランドを加えた4か国を回る旅であった。ところで、筆者は1999年にそれまで勤務していた社の自主閉鎖を余儀なくされ、社の処理を進めながらその片方ではK Int’l社の嘱託として旅行業務を扱ってきたが、2008年から株式会社エス・ピー・アイに所属させていただくことになっていた。篠塚代表取締役とは、90年代から「もっと優しい旅への勉強会」のメンバーとして共に活動してきており、筆者が会社処理をしていたときも側面から声援を送っていただいてきた。篠塚社長は、高齢で要介護のお客様などの旅行を支える仕組みを作ることに特に力を入れている人であった。 こうしてこの年9月、新たに株式会社SPI あ・える倶楽部
の「受注型企画旅行」として「豊かな自然と21世紀のエコ社会に見る北欧旅行」が実施されて14人の参加があった。この旅行にもたくさんの思い出があり、そのいくつかを紹介したい。その一つ、この時期、春先から円安化傾向が強まり、秋になるとユーロは160~65円となっていた。円の価値は大きく下落して旅行代金は当初の計画より大幅に高くなり、メンバーには随分申し訳ない思いをさせてしまった。加えて、物価の高い北欧、レストランで注文したワインは軽く1万円ほど、スーパーでは500mlのミネラルウォーターが400円以上であったような気がする。ノルウェーでわずかに買ったお土産は、絵葉書数枚とフィヨルドツアー案内用の地図だけであった。ベルゲンから鉄道で出かけ、ミルダルから山岳列車で一気に800m以上下降して、フロームから世界遺産のネーロイフィヨルド
を船で巡った。この日は朝から冷たい雨、 9月というのに船上ではセーターにコート、まさに冬の恰好。世界一長いといわれるソグネフィヨルドの最奥部にある峡湾で両側には高さ数百メートルの絶壁がそびえ、湾の幅は一番狭いところは100mにも満たなほどであったかもしれないほど。高い崖には幾筋もの滝がかかり海に落ちていた。雨に煙る神秘的な光景が今も思い出される。 スウェーデンではストックホルムのグランドホテルでの夕食。ノーベル賞受賞者が宿泊されることで有名な伝統的なホテル。残念ながら、実際に宿泊したホテルは別であったが、食事だけはグランドホテルのヴェランダ・レストランで優雅なひと時を満喫していただいた。そして、翌夕はバルト海クルーズ、54,000トンの大型フェリーでヘルシンキへ向かった。14階もある巨大な船体は、波止場で見上げるとさながら浮かぶホテルである。夕食は、スモーガズボード、日本流に言えば文字通りのバイキング料理であった。ワインも加わって一行はすっかりいい気分、食後は甲板に出た。鏡のような静かな海面を滑るように進んでおり、頬にあたる海風は冷たかったが久しぶりに校歌斉唱! ヘルシンキは、個人的には30数年ぶりの訪問であったが、
昔、いつもお世話になっていた通訳・ガイドのM氏が健在であることを知り、懐かしかった。このことがやがて埼玉県の大学教授各位のフィンランドの福祉や教育事情視察、あるいは障がい者の方々のオーロラ探勝ツアーへとつながった。人のつながりの有難さを改めて感じた再訪であった。 北欧が終わってしばらくは静かであったが、2011年の年が明けて、また行こうという話が出てきた。今回はイタリアからスイスに至る行程を考えた。ローマやヴェネツィアを訪れた人はあったが駆け足であったとか、大人数の団体であったので落ち着いては見られなかったなどの意見もあった。そこでローマ、フィレンツェを回りスイスへ足を伸ばすプランを立てた。「イタリアの美とスイスの絶景を訪ねる旅」として準備を進めていたがこの年3月には東日本大震災が起き、日本全国で海外旅行を自粛する人が多かった。私たちも参加予定者全員に諮ったところ、被災された人や地域に対して何らかの形で気持ちを表したり、活動している人も多かった。 従って、メンバーとしては折角の機会であり、自分たちの旅行は予定通り出かけることにした。 7月中旬の暑い日、ローマでは、フォロ・ロマーノや
コロッセオを歩き回り、修復を終えたヴァチカン美術館のシスティナ礼拝堂ではミケランジェロの手になるフレスコ画を鑑賞することができた。この後、トスカーナの小さな町ピエンツァからオルチア渓谷、シエナを経てフィレンツェを訪れた。当時、勤務していた旅行業専門学校で世界遺産を教えることになり、先ずは自らも猛勉強して検定1級の認定を得ていた。このころから旅行先では単なる観光地巡りに終わるのではなく、世界遺産としての価値を含めてより深く説明を加えて案内することを目指した。イタリアで訪れたこれら各地はいずれも古代ローマから中世、そしてルネサンスを代表するイタリアの芸術と文化であり、世界遺産であった。流れる汗をぬぐいながら、
石畳や古代遺跡の中を歩くのは楽ではなかったが、自分自身は、その年2月ごろから股関節などに痛みを覚えるようになり、腰をかばいつつ足を引きずりながらの歩行は何とも無様であったと思う。サポーターをつけたり、経皮鎮痛消炎剤の湿布薬を張ったりして痛みを凌いでいたが、歩行不自由を隠すわけにもいかず、みんなに心配かけたことをお詫びした。ところが、メンバーの中には口には出さないが同じように痛み止めの薬を飲んだり、サポーターをつけたりしている人もあった。お互いに苦笑しながら、それからはペースを少し落として歩くことにした。 アルプスを越えてツェルマットに至り、
名峰マッターホルンを仰いでのハイキングは楽しかった。その日の前夜、なでしこジャパンがワールドカップの決勝戦、ホテルのテレビにくぎ付けで声援を送った。翌日、トレッキング・トレイル(路)にあるカフェでは日の丸が掲げてあり、スイスの人々がなでしこの優勝を祝してくれていたらしい。 2012年は、これも9月、「パールロードと南イタリアを巡る旅」であった。かつてドナウの真珠と呼ばれるブダペストを訪れているが、今回はアルプスの真珠と呼ばれるブレド湖を有するスロヴェニアから
クロアチアを北から南へ下ってアドリア海の真珠といわれるドブロヴニク、そしてナポリへ至った。スロヴェニアやクロアチア各地では、20数年前の内戦や民族紛争で傷んだ跡があちこちで見られて心が痛んだ。しかし、今はいずこも観光客が溢れて表面的には明るさを取り戻している感じであった。その後、アドリア海をフェリーで横切り、バーリからとんがり屋根の石造りの家の集落で知られるアルベロベッロを経てナポリの町へ。その日の夕食は、サンタルチア海岸で夕日を浴びつつ、思いがけず71歳の誕生日を祝っていただいた。 2013年が明けて、与田氏からもう一度旅行計画を立てようと提案があった。我々の旅行も多分、今回が最後かもしれない。欧州各地はほとんど訪れているがまだ行っていない英国を訪ねるプランとすることを提案した。スコットランドからブリテン島を縦断してロンドンまで駆け抜ける行程とした。10月中旬、「英国の伝統・文化と田園を訪ねる旅」、今回は出発直前に1名取り消しがあったが、今回は自分を含めて9名、こじんまりしたグループであるが、いずれもこれまでに幾度も参加している気のおけない仲間たち、といった感じであった。エディンバラから
湖水地帯を巡り、リヴァプールを経てチェスターへ、さらに田園地帯の代表ともいわれるコッツウォルズ地方を経てロンドンに至った。エディンバラは、医療視事情視察等で70~80年代に数回訪れていたが当時は静かな北のアテネと呼ばれる政治経済学術都市であった。ところが、世界遺産となった今、町は観光客が溢れて大賑わい。金融やエレクトロニクス、IT産業と勢いづくスコットランドは実際に訪れてみると英国から独立しようとする気運が今も強いことを感じた。これは一昨年の国民投票で否決されて英国の安泰は一応守られたが、2016年の今、今度は英国自体のEU離脱論が大きな問題となっており、今も揺れ動く国ということであろうか。 還暦記念に始まった嘉穂高校12回生同期生有志の旅行は、その後、2008年からは旅行好きの仲間たちの旅行へと変わっていき、英国が最後の旅となった。仲間の中には、ハワイに25回以上も行っている人もあるし、南米のカナイマ国立公園にある世界一の高さを誇るエンジェルの滝やフランスの美しい村を巡る旅などを楽しんでいる人、あるいは北アフリカや地中海沿岸の国々にある古代ローマに因む都市や遺跡等を集中的に訪ねる人もあれば中国各地を訪れている人もあった。また旅行先で見た思い出深い風景を絵画に描いている人もある。これからも引き続き家族や親しい仲間と出かける人もあるだろう。一方では、一足先に遠くへ旅立った人も仲間も数名ある。今頃は、黄泉の国で旅行談議に花を咲かせているかもしれない。彼らのご冥福をお祈りしたい。そして、今年は多くの仲間が後期高齢者の仲間入り、お互いにそれぞれの人生を振り返りながら、これからもつつがなく過ごしたいものである。同期生各位のご健勝を祈念する共に、今日まで旅行を担当させていただいた筆者に対して寄せられた並々ならぬご厚誼に対して心からのお礼を申し上げたい。   (資料 上から順に) ノルウェー・ベルゲンにて (2008/9/3) ノルウェー・ネーロイフィヨルド(2008/9/4) フィンランド・ヘルシンキにて(2008/9/8) イタリア・ローマ・フォロ・ロマーノにて(2011/7/13) イタリア・フィレンツェ・ミケランジェロ広場にて(2011/7/15) スイス・ツェルマット 山上に翻る日の丸(2011/7/18) イタリア・アルベルベッロにて (2012/9/15) イギリス・スコットランドの首都エディンバラにて(2013/10/10)  

(2016/5/10)

小 野  鎭