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トラベルヘルパーマガジン
小野先生の一期一会地球旅
2016.08.31 小野 鎭
一期一会地球旅123「世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その4」
一期一会 地球旅 123
世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss
その4
ホテルからシルツホルン周遊のロープウェイ駅は、村を通り抜けた向こう側にあり、15分ほど歩く。 晴れていれば、遥かにベルナーオーバーラントの雄大な山並みを手中に収め、道の両側にあるホテルやカフェ、民家などのベランダに咲くゼラニウムやガーベラなど美しい花々を愛でながらどこまでも澄んだ青い空と緑の牧場を眺めながら鼻歌交じりの道行が楽しい。雨に濡れた村の中を歩くのも悪くはないが、この日は傘無しでは歩けないほど、それも冷たい雨。
自分のせいではないにしても申し訳ない気分になってしまう。駅に着いて頂上の定点カメラの動画をモニターで見ると一面白い世界らしい。駅のスタッフに聞いてみると今日は天気の回復は難しいかもしれない、でも、こればかりは何とも言えない、God knows ! (神のみぞ知る!)と言いながらヴァウチャー(切符引換券)を切符に替えてくれた。いささか浮かない気持ちで切符を受け取ったが、それ自体は何とも楽しいデザインである。表にシルツホルンの頂上ピッツグロリアの展望台兼レストランとその向こうに白雪を抱くベルナーオーバーラントの山並みと澄んだ青空、まさに世界一美しい山が印刷されている。そして、裏側には、Mürren ⇔ Schilthorn とある。
名刺大の大きさであり、乗った後はそのままお土産として持ち帰ることができる。 手元には何枚もあり、手に取ってみると今も懐かしさが蘇って来る。何とも洒落たデザインであり、アイディアが憎い。ピッツグロリアは、昔、ジェームス・ボンドの007「女王陛下のダイアモンド」という映画の舞台として使われた名所でもあり、ホテルアイガーには、最近、ジェームス・ボンドと名付けられたスイートルームができたそうだ。
チケットの美しい写真を眺めながら、何とかこの景色をお見せしたいものだと願いながら、この日ばかりはなんとも憂鬱な気持ちでロープウェイに乗り込んだ。途中の乗換駅であるビルク(2677m)に着いた時は、雪交じりに替わっていた。窓から手に届くほどのところにある岩峰の斜面には雪が積もっている。やがて頂上に着いた。海抜2970m、展望台はさらに10mほど上だろうか。エレベーターがあり、車いすの人たちも楽々とテラスに出ることができたが、外に出てみるとほとんど吹雪状態。視界もあまり効かず厚い雲が覆っていて美しい山はおろか、今乗ってきたロープウェイのロープが雲の中に吸い込まれるように消えている。テラスの上にうっすらと積もった雪に「B-POP」と指で書いているメンバーの姿が気の毒であった。展望台の階下は、回転レストランになっている。
暖かい室内で少し早目のお昼、大きなソーセージとマッシュポテト、玉ねぎソースの絶妙な味に舌鼓を打ちながら1時間余り頑張ってみた。時折雲が流れ、その向こうにチラッと山肌が見えることもあったがそれも束の間、また雲の向こうに消えてしまう。結局あきらめざるを得なかった。午後も回復する見込みがなければ、明日もう一度挑戦しようということも話しながら山を下りた。依然として降り続く雨の中をホテルへ戻り、午後は休養することになった。成田を発って3日目、ずっと動き回っており、疲れも少しずつたまってきている。ベッドの上に寝転がってテラスのゼラニウムや雨に濡れた牧場を眺めることで少しだけ疲れが取れたかもしれない。 旅行目的が大自然を眺め、味わうことをテーマとしている以上、時として天候が悪くて期待通りのものが得られないことがよくある。てるてる坊主を下げるのも一計かもしれないが、自然頼みというのは何とも頼りない話。そこで、これに備えて余裕ある日程を作ることが望まれる。今回も一日はシルツホルン周遊、そしてさらにもう一日予備を作ってお花畑を歩いたり、この村から谷底まで降りてハイキングをしたり、たくさんある滝を見物するなど大いに自然を楽しめるフレキシブルな日程を組むことを提案し、この条件に賛同いただいていた。
とはいえ、この日はもう一つプログラムが作ってあった。アルプホルンを生で聴くことであった。夕方、ホルン奏者アルバート・フォイツが来てくれた。彼は背負ってきた大きなケースからいくつかに分けたホルンを取り出し、それをつなぐと長さは3mほど、先ずは歓迎のメロディーであろうかい美しい音色が響いた。テレビやラジオ、あるいはCDなどで聴くことはあっても生で、それも目の前でそれを見ながら聴くということは稀有な経験。
みんな暫し美しい音色に聴き入っていた。それに続いて、アルバートはメンバー一人ひとりに吹かせてくれた。ブラスバンドはその名の通り真鍮などの金管楽器が主であるが、アルプホルンは木製(トウヒなどの樹木が多いらしい)で、この地方では大型のものは開口部が直角に曲げられており、これを立って吹くので先端部に支えを置いて、これも木製のマウスピースを吹いて音を出す。
優しい音色がはるかに丘を越え、谷の向こうまで響いていくのであろう。メンバーは、マウスピースを唇に当て、肺に思いっきり空気を吸い込み、頬に力を入れて少しずつ吹くと空気が共鳴して音が出るはずである。要領よく吹いて見事に音を出す人があるかと思えば、プシューっとしぼんでしまう人、マウスピースを唇に当てるのでなく、くわえて吹こうとする人などもあってみんなで大笑い。数回トライするとメロディーとまでは行かずともポワーンと音を出す人も多かった。うまく音が出るとみんなで拍手喝さい、こうしてしばらく楽しい競演、雨は少しずつ小降りになりホテルの玄関前のテラスからは谷を挟んでユングフラウの太刀持ち的存在であるシュヴァルツ・メンヒ(Schwarz Mönch :黒い僧侶 2649m)の黒い垂直の壁が見え始めていた。谷間にアルバートのアルプホルンの美しい音色が響き、思い出深いひとときを過ごすことができた。 彼への出演依頼は偶然なことからの思い付きであった。この旅行の数年前にNHKの番組、関口知宏氏の「世界の鉄道」のうち、スイス編はジュネーブから始まり西から東へこの国の横断であったが、その中で彼はラウターブルンネンの谷でシュタブバッハやトローメルバッハ(後述)などの名瀑で水の流れを通して覚える感動を見事に表現していた。
この地域では、インターラーケンからユングフラウヨッホへの山岳鉄道から見る絶景が紹介されることが多いが、関口氏のそれはミューレンの村であった。
遠くから聞こえてくるアルプホルンの音に耳を傾け、そこに近づいていってみるとそれがアルバートであった。各国の鉄道の車中、あるいは訪れる町々で出会うたくさんの人々と親しく接すると共にスケッチ、小文、各地の民族色豊かな楽器への挑戦、作曲など彼の多芸振りには驚くばかり。この時もアルバートとの語らいもほのぼのと温かみを覚えるものであった。その彼がミューレン近くに住んでいることも分かった。そこで、B-POPさんの旅行で彼に登場してもらえないだろうか、とホテルアイガーを通じて打診してもらった。出演依頼は二つ返事で引き受けてもらえたとのことであった。何が幸いするかわからない。雨の一日、残念ながら「世界一美しい山」は容易に仰ぐことができなかったが、地元の人たちに言わせると明日は多分天気が回復するだろう、とのことであった。結局、予備にとってあった翌日、もう一度シルツホルンに挑戦することになり、この日はホテルの名物料理、フォンデュ・シノアズ(中国風フォンデュ)に舌鼓と赤ワインのピノノアールを楽しんで景気をつけて明日への期待がさらに大きくなった。(以下次号) 資料 (上から順に。 一部をのぞいて2010年8月末撮影) ミューレンの村は雨が降っても花いっぱい。 シルツホルンへのロープウェイの切符、思い出に残るデザインが嬉しい。 ホテルアイガーのジェームス・ボンド・スィート(ホテルのホームページより借用) ピッツグロリアのテラスは雪! ピッツグロリアのレストランにて アルバート・フォイツのアルプホルン演奏 アルプホルンに挑戦! どうして音が出ないのかなー!? シュヴァルツホルン(Schwarz Mönch=黒い頭巾をかぶった僧侶の意。 関口知宏氏のスイス鉄道の旅(資料借用) ホテルアイガーのメニュー(2010年8月28日版) (2016/8/30) 小 野 鎭
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