2016.09.07 小野 鎭
一期一会地球旅124「世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その5」

一期一会 地球旅 124

世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その5

明けて8月29日、玄関へ出てみると吐く息が白く見えるほど、かなり冷えているらしい。目を遠くにやると黒々とした山容の上の空が少しずつ明るさを増して、アイガー、メンヒがくっきり見え始めた。 お陰様で天気が回復したようだ。こうなると俄かにベランダがにぎやかになる。山が見えている! あれがアイガーであちらがユングフラウ? 待ちきれないようにみんな朝食に下りてくる。ホテルアイガーのブッフェ式朝食は評判が良い。ジュースはオレンジやトマト、リンゴ、チーズも豊富、ベーコン、ハム、ソーセージなどのミート類、スクランブルエッグ、パンは、クロワッサン、トースト、そしてこの地方独特の素朴なライ麦の黒っぽくてちょっと固めのパンなど。
ヨーグルトもプレインなものからイチゴ味やサクランボなどもある。そしてミルクをたっぷり入れたカフェ・オ・レ。とても食べきれないほど。今日は念願の山を見ることができると思うとそれだけでも元気が出て、ついつい食欲も増す!
きょうの最初の予定はチーズ農家の見学。最初の日に乗ってきたミューレン鉄道で15分ほど戻りヴィンターレッグという無人駅で降りる。ホームを出ると目の前に素朴な道案内が建てられており、ベルグケーゼ(山のチーズ)とあった。雪の消える5月ごろから雪が降り始める10月ごろまで山に来てチーズ作りをしているとのこと。シルツホルン山麓一帯の農家で生産された牛乳が運ばれてきてそれをここでまとめて請け負っているらしい。外観は大きく素朴なシャレー風の建物であるが、内部に入ると見るからにモダンな計器とたくさんのパイプやホースがつながっていた。直径150cmはあろうかという大きな銅の釜でゆっくり牛乳がかき回されている。工房のマスターは牛乳が運び込まれてチーズが出来上がるまでの工程を説明し、内部を案内してくれた。酪農用語はともかく、酵素や乳酸菌など各段階での説明はドイツ語交じりでよくわからず、メンバーの皆さんには申し訳なかったが、一行のリーダーである湯澤氏がこの分野では詳しく、むしろ助けていただいた。直径30cm、厚さは7~8cm位、小型のタイヤくらいの大きさのチーズが出来上がり、熟成されている部屋を見せてくれた。板の上に整然と並べられて、数段積み上げてある。数か月間寝かされて出荷されるそうだ。倉庫から出ると庭のテーブルの上に数種類のチーズが並べられていて、試食させてもらった。
目の前にそびえるユングフラウ三山と澄んだ青空を眺めながら味わう、その名前も「Bergkäse Winterregg」(ウィンタレック山のチーズ)はとても美味しかった。即売もされていたし、ホテルアイガーの朝食にも出されているかもしれない。世界一人件費の高いスイスは、物価も高い。チーズとて例外ではない。それでも日本のスーパーなどで見かける小さくカットしたものでも2~3000円することを思うとやはり製造元では安かった。この時は、のこり数日で帰国することになっており、行程も複雑ではなかったので、やわらかく風味のあるこの美味しいチーズはお土産に最適であった。
ミューレンに戻り、いよいよシルツホルンに再挑戦。きょうは絶対に山を見るのだと、小躍りし、足取りも軽くロープウェイの駅を目指した。駅では、昨日と同じメンバーがシルツホルンを再訪するのだと聞いて喜んでくれた。切符を買うとき、念のため障害者や添乗員割引について聞いてみた。車いすのお客様は見ればわかるから、と割引を適用してくれたし、全体の人数が10名を超えているからと添乗員割引も配慮してくれた。
スイスは鉄道運賃も日本よりはるかに高いが周遊券だけでなく、このようにその場で臨機応変に対応してくれることが有難かった。加えて、この日はシルツホルンに上った後、ここへ戻ってさらに谷底のシュテッヘルベルクまで下りて、そのあと谷を下ってラウターブルンネンへ行き、ミューレンに戻る周遊をしたいと申し出た。この区間の周遊割引はないが、それぞれの交通機関(ロープウェイ4回、バス2回、山岳鉄道1回)には皆さんのことを連絡しておきます、どうぞ、楽しい一日を! Have a good day,  Alles gut! と笑顔で送り出してくれた。この日のルートの切符数枚が今も手元に残っており、楽しかった一日を思い出す。確かに行く先々の駅ではどこもスタッフが快く支援してくれたし、路線バスは低床式であった。
勝手知ったる我が家ならぬピッツグロリアへのロープウェイ、今度は間違いなかった。ゴンドラの天井に取り付けられている高度計の針が次第に高度を上げていることを示していた。眼下には緑の牧場が広がり、さらにその向こうにはラウターブルンネンの深い谷間が広がっていた。
間もなく森林限界をすぎると岩山の世界、そして、あちこちに雪渓が残り、鋭い岩峰の斜面には昨日の雪がその上に積もっていた。しばらくすると雲の中に入りあっという間に雲海の上に出た。そしてピッツグロリアに到着、間違いなく雄大な山並みが広がり、うっすらと残っている新雪を踏みながらみんなで歓声が上がった。そして、みんなの世界一美しい山を飽かず眺めていた。
こうして大きな感動を味わった後、今度は出発したミューレンで乗り換えてさらに谷底のシュテッヘルベルク目指して下りていった。垂直の岸壁には岩の出っ張りをつないで吊り橋が掛けられていた。
谷底までは数百メートルはあるだろう。宙ぶらりんのこの橋を渡る勇気は持ち得ないし、考えただけでもゾッとする。さらに遠くに目をやると何本かの滝がかかっていた。この谷が滝の名所であるといわれる所以であろう。ロープウェイは快調に下っていき、谷底の緑野がどんどん近づいてくる。わずか1時間足らずで標高差2000mを下りてしまった。ふもとの駅に降りて最初に感じたのは暑さであった。陽射しの強さも加わって、頂上と谷底の温度差は12~3℃あるだろう。
ここでは25℃くらいであっただろうか、先ほど雪の上に立っていたことを思うと信じられないような気分であった。緑野の中央部に小高い堤防があり、かなりの水量の川となっていた。氷河を削ってきたせせらぎがたくさん集まってこの川となっている。岸辺に座って灰色がかった激流に恐る恐る手を付けてみると氷河を削ってきた水は手が切れるのではないかと思うほどの冷たさであった。また空を見上げるとはハンググライダーが悠々と空中を舞っていた。この谷はこのアトラクションでもよく知られている。
駅の周りには大きな駐車場があり、たくさんのクルマが停まっていた。周辺の観光地やハイキング、登山などで山に入っている人たちのクルマもあるだろうし、この谷のはるか上にあるミューレンやいくつかの集落とアルプ(山岳牧場)の農家などがここを利用しているのであろう。この谷と山の上に住んでいる人たちの生活を垣間見た感じであった。ここにはレストランらしきものは無かったがすでにお昼をかなり回っていたので、ハンバーガースタンドと思しき屋台で空腹を癒してひと休みした。そして、この日のもう一つのアトラクション、トローメルバッハ(トローメルの滝)へのバスを待った。(以下次号) (資料  上から順に、 一部をのぞいて、2010年8月29日撮影) 朝日に輝くアイガーとメンヒ、右手前は黒い僧侶〔シュヴァルツ・メンヒ〕 ホテルアイガーの朝食(資料借用) 山のチーズ工房 熟成を待つチーズ ミューレン快晴! 切符 ミューレン/シルツホルン/シュテッヘルベルク/ラウターブルンネン/ミューレン ピッツグロリア、先ずは撮影! ピッツグロリアにて、この時はアイガーが恥ずかしかったらしい? アルプスカラス(テヒ)も雄大な山並みを眺めていた。 シュテッヘルベルクの谷の側面に架かる吊り橋(左中ほどから右へ線のように見える) ラウターブルンネンに大小72の滝があるとのこと。 この谷はハンググライダーもよく舞っている。 (2016/9/6) 小 野  鎭