2016.09.20 小野 鎭
一期一会地球旅126「世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その7」

一期一会 地球旅 126

世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その7

 
翌日も空は晴れわたり、ミューレン一帯には早くも秋の気配が漂い始めているようであった。広葉樹の葉が少しずつ黄色や茶に色づき始めていた。野の花も夏の盛りを終えつつあるようだった。 楽しかったミューレンでの滞在を終え、美しい山々の絶景をもう一度名残惜しく眺めつつ、幾度も通ったラウターブルンネンの谷間へ降りていった。4日前にここまで連れて来てくれたリフト付きバスが迎えに来てくれており、荷物を積み込みインターラーケンまで15分ほど揺られた。一行はここインターラーケン東駅で降り、バスは荷物をそのままこの日の宿泊地そしてこの旅行の最後の目的地であるルツェルンへ運んでもらうことになっている。
メンバーはここからゴールデンパスと名付けられた鉄道でルツェルンへ向かうことにしていた。スイス国内には氷河特急やウィリアム・テル号、そしてこのゴールデンパノラマなど景勝地を巡る豪華な列車がある。鉄道が移動手段だけではなく美しい景色を車窓から眺めながらレストランカーで食事を楽しみながら旅をする、つまり鉄道に乗ることそのものが旅の楽しみ、これもこの国の観光の大きな特徴の一つである。 レマン湖畔のモントルーから3つの異なる鉄道会社の路線をつないで古都ルツェルンへ抜けるスイス横断ルート。きらめく湖、雄大なアルプス、のどかな牧草地、美しいブドウ畑など刻々変わる風景を楽しめる。この時はそのうち、インターラーケンからルツェルンまで約2時間の旅であった。インターラーケン東駅で待つことしばし、列車が入ってきた。大きな窓、ゆったりしたシート、1等席でご機嫌、ブリエンツ湖畔からベルン高地を車窓に列車は快適であった。
やがて1002mのブルーニック峠へ向かってスイッチバックを行い逆方向に高度を上げていった。名探偵シャーロック・ホームズ終焉の地と言われているライヘンバッハの滝も見えていた。そんな景色を楽しむのと同時にお昼を列車食堂でいただいた。次第に高度を上げて鉄道は勾配もかなりあり、レストランカーのテーブルも傾斜し、スープがこぼれそうになったり、お皿を抑えたり、カメラ片手の食事は何とも忙しいひと時、今となってはそれも楽しい思い出。 列車は、やがて平地へ降りていき、車窓いっぱいに大きな湖が広がってきた。フィアヴァルト・シュテッテ・ゼー通称ルツェルン湖。中央部スイスで一番大きな湖で、湖岸各地にはピラトスやリギ山、この国発祥の地などもある。
古くから開けた一帯であり、歴史と豊かな文化、美しい風景が広がり、観光スポットがたくさんある。一年を通して観光客でに ぎわっている。ルツェルンはその中心地、湖から流れ出すロイス川の両側に旧市街がありその周りに城壁が残り、さらにそれを取り囲むように湖畔一帯にかけて近代的な街並みが広がり、活気があふれている。やがてモダンな中央駅に着いた。インターラーケンから一足先に着いていた大型バスに乗り替え、駅から数分のところにあるこれもまた斬新なデザインのシティホテルにチェックインした。このホテルに2泊、前日までの山のホテルと違ってガラス張りの最新式のホテルはロビーも広く、ゆったりしたエレベーターもあり機能的、アクセシブルルームは広くて快適そうだと好評だった。しかし、ここはファミリー経営の山のホテルのような親しみは残念ながらあまり期待できそうになかった。商用客もたくさん泊まっており、都会的なホスピタリティというほうが良いのかもしれない。これも一つの旅の経験であろう。 午後は旧市街を散歩したり、ホテルで休養したり、
中心街を歩いてみると車があふれ、人々が忙しく行きかっていた。心のモードが少しずつ忙しい現代生活に切り替わっている気分、湖の向こうに連なるアルプスの山並みを眺めながらも、旅の終わりが近づいている少し寂しい複雑な思いであった。
ここで、かねてより関心のあったユーロキー(Eurokey)を入手すべく、Pro Infirmis(スイスの障害者団体)のルツェルン事務所を訪ねた。ユーロキーとは、スイス各地の公共の車いすトイレやエレベーターなどに共通につけられている鍵のことである。実はこの時よりも数年前、インターラーケン東駅のトイレにカギがかけてあり、キオスク(売店)に聞いたところ駅の案内所で借りるようにとのことであった。その後、調べてみたところ、この国ではユーロキーという仕組みがあることを知った。南ドイツやオーストリア、チェコなどでも共通に普及しているらしい。
近年、日本では交通機関や建物のバリアフリー化が進み、ユニバーサルデザインを意識してさらに様々な機能のあるトイレが普及してきており、しかも多様化している。世界中に多目的トイレがこれほど急速に普及してきている国はほかにあまりないのではないだろうか。快適さゆえに却って必要な人が必要なときに使えないという不都合が生じていることも聞いているが、これは使う人の良識に訴えるしかないのかも? また、日本では公園などでは安全管理上、施錠されることがあるが、一般的には有料トイレ以外はロックされていることはあまりないであろう。それに比べてヨーロッパに限らず多くの国でトイレにカギがかけられていることはよくある。アメリカなどでは、オフィスビルでもトイレに行 くときに鍵を持って行くことがよくある。スイスでは、Pro Infirmisがこのカギの仕組みの管理団体となっており、障害者にEurokeyを貸与している。
その目的は、公共施設に於いて障がい者が必要とする特別な部屋(Specific Room)を公衆衛生面からも確保し、その人たちが安心して使えるように、とある。そして、利用者の安全確保や設備の破損などからこれを防止するための大きな理由がある。トイレにとどまらず、エレベーター、階段脇に設置された昇降機やロッカーなどもこのカギが共通に使われている。
このカギの入手方法はホームページに記載されているが、スイス障害者団体の会員などに限定するとは書いてない。障害者以外は利用できないが、筆者は自分の立場と役割を説明し、障がいのあるお客様をお連れしたときにいつでも使えるようにしたい、と希望を述べて旅券を提示し、申込書に署名、使用料(25スイスフラン、約2,100円)を払った。実は、この旅行でチューリヒ到着早々に入手したかったが時間的余裕が無かったし、ミューレン滞在中は行動範囲がかなり限定されており、トイレの所在も次第にわかってきていたのでその緊急性も無いままに過ごしていた。念願(?)のユーロキーを手に入れることができた。翌日はフリータイム。この町のランドマークであるカペル橋、旧市街の散歩やショッピング、湖上遊覧、交通博物館など三々五々楽しい時間を過ごしていただいたがユーロキーがあることで車いすのメンバー各位には気持ちの上でかなり楽に「まち歩き」ができたと喜ばれた。 旅の終わりの夕食会は、旧市街にあるシュタットケラーStadt Keller)でのディナーショー、素朴な楽器やヨーデルなどの民俗音楽で楽しませてくれた。
舞台に呼び上げられた10名くらいのお客がアルプホルンに挑戦、ミューレンでアルプホルンの奏者アルバートから実地に指導を受けたK君は見事に美しい音色を響かせて会場からは大喝采。 チーズフォンデュやビール、さわやかなリンゴジュースなどで乾杯、世界一美しい山、ユングフラウ山塊の荘厳な山並みとラウターブルンネンの谷間で見た光景やスリリングな経験を語り合いながらスイスでの最後の夜が更けていった。そして、翌日、楽しい思い出をいっぱいに抱えて帰国の途に着いた。 (資料 上から順に。 特にことわりのないものは2010年8月撮影) ラウターブルンネンにはおなじみのリフト付き大型バスが待機してくれていた。 ゴールデンパス・パノラマ列車(資料借用) 急勾配を上っていく列車食堂ではお皿を抑えたり、写真を撮ったり、忙しかった! 山紫水明のルツェルンの町 午後のひと時、みんなで市内散策 ユーロキー ユーロキーの操作方法は分かり易いピクトグラムで案内されている。 ルツェルンのランドマーク、カペル橋と水の塔(オリジナルの橋は14世紀に架けられた) カペル橋に設置されている昇降機。 インターラーケンから仰ぐユングフラウ方面(ミューレンも右の雲の下にある) (2016/9/19) 小 野  鎭