2016.09.28 小野 鎭
一期一会地球旅127「世界一美しい空を見に行こう ラップランドの旅(その1)」

世界一美しい空を見に行こう

ラップランドの旅 (その1)

2010年8月、スイスのベルナーオーバーランド地方の山ふところミューレンでの滞在を楽しみ、ユングフラウ山塊の荘厳な眺めに感動した余韻はその後も続いていた。 翌年の夏、今度はオーロラを見に行くプランを考えて欲しい、とのお話をいただいた。 重い障害をお持ちの方や知的障害のある方などもおられるが、これからも楽しいことをやっていきたいし、皆さんに非日常のひと時をエンジョイしてほしい、との願いもあるのだろうと思う。ご家族やスタッフを交えて海外はもちろん、週末のお出かけや夏の川遊び、アクセスディンギと呼ばれる小型ヨットでの湖上遊覧など様々な戸外活動も楽しんでおられる。そして、こんどは、いつも見上げている大空、それも厳寒の深夜に繰り広げられるであろう巨大な大空のページェント、オーロラ探勝が目的であった。 オーロラ(極光)、英語ではNorthern Lightsと呼ばれることも多いがその発生のメカニズムはさておき、それ自体は一年中極地方で発生しているそうである。日中は太陽光が強いので一般的には見えないし、多くは厳冬期の夜、見られるという。その時の気象条件にもよるであろうし、その現象がより強く発生することもあれば発生しないこともあり、天候によっては見えないこともあるだろう。地上から見られる確率はまちまちと案内されている。北欧の北極圏より北の方であるとか、カナダやアラスカの北部などでよくみられるといわれており、観光客も多い。グループ旅行を企画する以上、限られた日数の中でうまくそれが見られるように、そして滞在中の楽しいプログラムを織り込むことが条件である。加えて、重度の障がいがあり、車いす使用の方もおられることを考えると厳寒の地での屋外での移動など付加的な条件をさらに満たさなければならない。旅行先としては、アラスカのフェアバンクス、カナダのイェローナイフ、ノルウェーのボドやトロムゾ、フィンランドのロヴァニエミなどが考えられそうですが、オーロラ発生の確立、日本からの航空便、現地での様々なアトラクションなどから候補地を選ばなければなりませんね、と申し出たところ、フィンランドにして欲しい、とのことであった。今回も旅行は特定非営利活動法人 ビーポップと障害者の社会参加をすすめる会の共催で行われるが後者の代表である小林佐和枝氏のお母様にフィンランド人のお友達がおられるとのこと。 様々な情報も得ておられるし、現地訪問などでは協力していただけるとのことであった。毎回の旅行では、主要目的に次いで現地の人々と交流したり、市民生活の様子を知ることでさらに旅行の楽しみを広げようというのがこのグループの特徴でもあった。現地に伝手があることはその意味からも大きなメリットである。 個人的には、70~90年代に北欧は数十回訪れているがいずれも福祉や医療、建築、都市計画、協同組合、漁業などの専門視察を目的としたものであった。
しかし、フィンランドはそれほど多くなく、10回程度であっただろうか、それも首都ヘルシンキとその周辺がおおく、オーロラが見られるであろうロヴァニエミなど北極圏以北は97年に一度訪れたのみ。それも知的障害者施設と地域サービスの視察であり、わずかに市内と周辺を少し回っただけであった。7月中旬とあって白夜の季節、高台から眺めるとどこまでも森が広がり、まさに森と湖を代表するような風景であったことを思い出した。加えて、冷たい雨に降られたこともあって夏とは言いながらもかなり冷温であったことも印象に残っていた。しかし、最新の旅行事情の収集にあたっては、フィンランド政府観光局や大使館、航空会社そしてなにより助かったのはフィンランドを主として現地手配を行っているランドオペレーターFinn Tourの協力を得たことであった。昔と違ってインターネットや内容豊富なガイドブックなど幅広く有用な情報を得ることができ、時代の変化を改めて知った。 たくさんの情報を得ることでオーロラの発生とそれを見ることのできる時期は当然冬になるが10月の下旬から翌年4月上旬までらしいこと、一方、主催者であるビーポップ側の都合としては3月が好都合とのこと。時期的には学校の春休みシーズンでもあり、卒業旅行などもあり、極寒の地であるといっても日本からはオーロラ探勝のお客も多く、かなり混んでいることを考えると旅行手配はできるだけ早くからかかることが望ましい。こうして、3月上旬出発、主要な目的地はロヴァニエミとして3~4泊すること、前後にヘルシンキで宿泊し、全体では8日間程度とすることで旅程を組み、「ラップランドでオーロラを見よう」という仮のタイトルをつけて素案を提示した。これをB-POP様は「世界一美しい空を見に行こう」というツアー名で呼び掛けられることになった。幾度か参加呼びかけの説明会が行われ、次第に関心を寄せられる方もふえてきてどうやら20名近くの方の参加が期待できそうであった。具体的な旅行準備として航空便やホテルの手配にも力を入れていったが、折しも手配会社の営業担当であるE氏が業務打合せでヘルシンキに出張されることになり、かねてより気がかりであった極寒の地における車いすの方々の屋外移動やロヴァニエミなどの現地事情をさらに探っていただきたいとお願いをした。
間もなくしてE氏からこの機会に実際に現地を見てきたとの説明があった。そして、今回の滞在地はロヴァニエミよりもさらに200kmあまり北上したムオニオという自治体にあるハリニヴァ・リゾートに滞在するほうが皆さんの希望にお応えできる可能性がさらに高くなると思うとのことであった。夜間の気温は-30℃くらいまで下がることも珍しくないがウィンタースポーツを楽しむ観光客は多数訪れており、車いす使用など障がい者の方の来訪もあるとのこと。宿泊施設としてこのリゾートにはツインルームのほか、家族や少人数グループ向けアパートタイプの部屋もあり、3~4名が一緒に使えるので却って好都合ではないだろうか。但し、ほとんど全室がシャワー付きであり、リゾート内にサウナがあるので旅行客はもっぱらそちらの方を好まれる、とのことであり、これもフィンランドらしいと解釈せざるを得なかった。いちばん大きな特長は、リゾートの敷地はそのまま大河ムオニオ川に隣接して広がっており、冬の間は凍結して広大な雪の原っぱになっており、そこでオーロラを探勝することができるともっぱらの評判であるとのこと。
ロヴァニエミなど都市部や大形のスキーリゾートなどでは、夜間も街灯や夜間照明が明るくて、深夜にオーロラが見られるところまでバスや車でオーロラ・ハンティングをするのが一般的だとか。しかし、ハリニヴァではリゾートの玄関先から数百メートルも歩けば凍結したムオニオ川の白い原野、ここでこれを見物できるので時間的な制約もないし、もっと楽しそうだとの期待が持てることであった。さらに昼間は犬ぞり体験やスノーモビルでの原野ツアー、北欧ラップランド地方の先住民であるサーメの人たちのトナカイ牧場見学などアトラクションもたくさんあり、胸躍るような気持ちで旅行行程を組み直した。気がかりであった車いすの人たちの屋外移動は、路盤はぬかるみというよりは雪が凍結しているので寒さは防寒着で補い、雪道ではスリップしないように注意すればさほど心配はないらしいとの現地での説明であったとのこと。
そういえば、昔、ロヴァニエミで市内や障害者施設を見学した際、車いすの方はたくさん見かけたし、その人たちは当然この地で普通に生活し、冬も過ごしているはず、そう考えると十分に納得することができた。 リフト付きバスは、ヘルシンキでは可能であるが、ラップランドの広大で人口希薄な地域では観光用貸切バスとしての存在が無いらしく、12~3人乗れる小型のバスを2台借切ることでまかなうことにした。乗降時はスタッフなど団員相互で支援し合っていただくことをお願いした。こうして組み直した旅行行程は、成田~ヘルシンキ(泊)~夜行寝台列車(泊)~ロヴァニエミ(泊)~ハリニヴァ・リゾート(3泊)~ヘルシンキ(泊)~機中泊~成田という全行程7泊9日間であった。 現地とのやり取りをさらに入念に行い、筆者を含む19名が2013年3月7日の出発へ向けて期待にさらに胸を膨らませながら楽しい準備が続けられた。 (以下、次号へ) (資料、上から順に) ロヴァニエミにて (1996年7月) ハリニヴァ・リゾート(資料借用) ハリニヴァは北極圏間近のロヴァニエミからさらに北へ200㎞余り。 世界一美しい空を見に行こう 旅行参加の呼びかけ資料(2012年作成) (2016/9/27) 小 野  鎭