2017.06.14 小野 鎭
一期一会 地球旅162 地球の歴史を見に行こう リンデンハウス 秋の東北へ(4)

一期一会 地球旅 162

リンデンハウス 秋の東北へ(4)

こうして準備が整い、携行旅程も寮生各位にできるだけわかりやすく、楽しい内容であるようにと心がけて作成し、旅行の2週間くらい前にお届けした。 本番の旅行は10月15日(土)から2泊3日、この日の朝、東京駅へ直行した。メンバー各位は武蔵五日市から一つ手前の武蔵引田から出発され、拝島駅で乗り換えて中央線で東京駅へお越しいただいた。東北新幹線の乗換口でお会いすることになっている。つまり、旅行のお取り扱いはご出発からお帰りになるまでの全区間であるが、添乗業務は東京駅発着ということでお受けしており、武蔵引田と東京駅間の往復はお客様方で動いていただくことになっている。 久しぶりの添乗であった。その前は、というとその前年の2015年秋、米国のグランドキャニオンへ、地球の歴史を見に行こうというグループをご案内して以来であった。2016年は、この秋の旅行が初めての添乗であり、それ以外には添乗はもとより、海外にも出ていなかった。つまり、この年は結局海外に出ることが無く、パスポートを開くこともなかった。考えてみると、1966年に初めて海外添乗をしてから少なくとも年に一回は海外に出ており、1年365日、日本で過ごしたのは49年振りであったということになる、妙な表現ではあるが、記念すべき年であった。 国内添乗となると2005年晩秋、京都から城崎へ高校時代の同期生の旅行、そして、2014年秋、奥会津へさいたま市にあるグループホームの方々を案内して以来であった。230回余りの添乗経験で、延べ3,319日間になるが純然たる国内旅行は十指にも満たないほど。正直なところ国内添乗は得意ではなかった。今では、国内の募集型企画旅行は名所旧跡や催しなど訪れ、名物料理やショッピングを楽しんでくる日帰りあるいは数日間の旅行が多く、比較的若い世代が添乗している例が多い。観光地など目的地では専門のガイドや解説者が案内をして、添乗員は旅程管理業務、つまり、あらかじめ組み込まれた旅行内容がきちんと提供されるようにこれを進めることが業務になっている。一方では、受注型企画旅行など、ある特定団体を集中的に案内して人気を博している名の通った添乗員氏も多いとか。彼らは、旅程管理業務をきちんと履行し、その上でさらに面白おかしくお客様を楽しませ、徹底したサービスを振りまいて、次の旅行もこの添乗員氏が付くのであれば、と期待されていることも多いと聞く。自分はそのような演技や振舞いは到底及ばないし、余興サービスはもちろんできない。加えてアルコールもダメでお上手も言えない。いわば、石部金吉とは自分のような人間をさすのかもしれない。 純然たる観光旅行はほとんど添乗経験もなく、自分は研修や視察など特定団体の添乗が主たる業務でこれまで回を重ねてきた。とは言え、このように視察や研修を目的とした団体でももちろんその土地の文化や歴史、風物などを知ることは大切なこと、それらを通じて旅行本来の目的を達成する上でそれらはさらに有効に、実り多くすることにつながっていく。つまり、市内見学はそのグループに於いても大切な旅行の一部、ただし、それらはその旅行団の目的に因んだような色彩を帯びて案内されることも多いし、それに関わるような場所を訪ねることもある。従って、数多くの様々な専門家グループの添乗をすることで訪れた世界各地の歴史や文化をより一層深く見てくることができたことはまさに自分にとっての財産であると感謝している。 今回は、グループホームの皆さんとスタッフからなる13名、比較的こじんまりしたグループであるが、5年前の東日本大震災で被災された地域を巡り、犠牲となられた方々への祈りと復興に力が入れられている様子を見に行こう、というのが主たる目的であった。勿論、景勝地を巡ることもその中には織り込まれていた。前述したように地域の文化や歴史、風俗や習慣などを知ることは視察や研修団にとっても現地を詳しく知る上では大事な旅行の要素である。 今回は、宮城県の松島海岸から石巻、そして南三陸町を訪ねる行程が準備されていた。周知のように、この大震災では、地震の後に発生した大津波で想像を絶する大きな被害が広範囲に発生していた。それらの地を巡りたいとのことであったので仙台市にはほとんど立ち寄ることなく、日本三景の一つ、松島が最初の目的地であった。有名な瑞巌寺も被災されて修復工事が行われていると聞いていた。また、深刻な被害は石巻市の各地そして南三陸町では20数メートルにも及ぶ大津波が集落や学校などを飲み込み大変な数の人命が失われている。話には聞いているが現地でその跡を知ることは大変興味深くもあり、大事なことであると承知していた。個人的にも一度は訪れたいと願っていたところでもあった。
10月中旬の土曜日の朝、秋の旅行シーズンたけなわの週末とあって、東京駅の構内は平日の通勤スタイルの人はそれほど多くなく、むしろ、遊覧や観光旅行に出かけるためのラフな格好の人たちでごった返していた。その混雑ぶりは想像以上であり、より分かりやすい場所へ皆様を誘導することの必要性を強く感じていた。メンバーは9時38分に到着予定、そこからスタッフ各位のリードで集合場所として打ち合わせてあった東北新幹線の乗車口にお越しいただくことになっていた。頃合いを見計らって携帯電話で連絡を試みたが容易にはつながらなかった。皆さんは到着早々大混雑の中でメンバーを見失わないように、あるいは、階段で転倒したりしないようにと神経を使っておられたのであろう。新幹線はやぶさ13号は、20番ホームから午前10時20分発であり、10時頃までには所定の乗り場に行きたい。幾度か電話連絡を試みていたところ、間もなく通じて、それから間もなく全員そろって集合場所に見えた。
メンバー各位とは、一度お会いしており、皆さんは緊張されながらも、ホッとされた様子が窺えた。皆様に「今日から2泊3日、『秋の東北へ』のご案内をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」とご挨拶をした。そして、先にお送りしてあった新幹線の特急券を皆様に配っていただいた。ところが、どういうわけか1枚不足しているらしい。間違ってどなたかに2枚重なった状態で渡されたのかもしれない、ということで全員入念に見直していただいた。しかし、やはり見つからなかった。念のため、持参したファイルを開いて、事務局にお送りする前に撮ってあったコピーをみたところ、間違いなく人数分お送りしていることを確認した。そこで、特急券を入れてあった封筒をもう一度見直していただいたところ、一枚、残っていた。これで一件落着、みんなでヨカッターと拍手、これで一安心。
改札口を抜けて、20番ホームの中ほど、7号車の乗り場に並んだ。待つほどもなく、カモノハシのような独特のかたちをした緑色のはやぶさが入線、そして静かに停まった。ドアが開き、到着客が出終わると車内クリーニング・スタッフの一団が整然と車内に入り、手際よく掃除していく。
見事なチームプレーとテキパキした仕事振りで知られ、今やハーバード・ビジネススクールでも紹介されているそうである。興味深そうに車内をのぞく人もある。7分間が勝負だそうであっという間に清掃を終え、一団がホームに出てくると車両のドアが一度閉められた。そして、アナウンスとともにドアが開き一斉に乗車、予め指定された座席に腰を下ろす。その上で、相互支援などを考慮して組合せが一部改められて全員が着座。網棚に荷物を置いて落ち着いたころ、定刻になり、静かに発車。車窓には丸の内から神田、秋葉原界隈の風景が流れていき、仙台へ向かって次第にスピードが加わっていった。 (以下、次号とさせていただきます。) 資料 (上から順に) 秋の東北へ 携行旅程 東京駅 はやぶさ13号 出発案内(資料 借用) はやぶさ特急券の写し 新幹線 車内清掃の様子(資料 借用) 新幹線 車内清掃チームの活躍ぶりは世界的に評価されているとのこと(同上) (2017/6/13) 小 野  鎭