2017.08.08 小野 鎭
一期一会 地球旅 170 リンデンハウス 秋の東北へ(12) 南三陸にて(2)

一期一会 地球旅 170

リンデンハウス 秋の東北へ(12) 南三陸にて(2)

南三陸ホテル観洋は、志津川湾に面した半円形の海岸の中ほどの斜面に位置している。陸中海岸最大級のリゾートホテルとして紹介されており、244室、収容1,300名とある。海岸の斜面に立地したホテルの多くはロビー階が道路と同じ高さにあり、宿泊階はその上層階、崖の高さが高い時はロビー階から下へ下がっていくこともあるがいずれも眺望が「売り」となっていることが多い。
さらに大浴場や宴会室などはロビー階より少し下がったところにあり。娯楽室やフィットネスなどの設備を整えていることも多い。ホテル観洋は、規模が大きく、驚くほど広いロビー階の上には大型のコンベンションホール、大小の多目的室もあった。朝は、この大きな部屋が朝食会場となり、たいへんな賑わいであった。ブッフェテーブルが何台もおかれ、和洋中様々な料理が準備されていた。お客はブッフェテーブルを回っては好みの料理をお盆に載せて空いたテーブルを探して落ち着く。何しろ広いのできょろきょろし、伸びあがってはテーブル探し、ちょっと忙しい!とは言え、宿泊客特に団体客も多いので、これが一番効率的な方法であるのだろう。海外の大型ホテル等でも朝食時は大盛況、世界中から文化や風習の違う宿泊客がどっと押し寄せるとすればそこでは料理の種類や趣向、ことば、食べ方やマナーも多種多様、興味深い風景を目にしてきた。このホテルでもインバウンド客、とくに中国やアジア各国からのグループなど多数が訪れていると思うが似たような風景が毎朝繰り広げられていることだろう。志津川町の中心部から海を挟んでこのホテルを遠望すると白亜の大きな建物が海を前にして立ち、圧倒的な威容である。
メンバーの部屋は9階であっただろうか、3室はいずれも海に臨んだほどほどの広さの和室、窓からは一面に広がる静かな湾の光景が見事であった。一面の海には幾何学模様のように筏(いかだ)らしいものが並んでいた。海苔などの養殖であろうか、三陸の海の幸がこうして生まれているのであろう。一夜明ければ、洋上に朝日が昇り、海は金色に照り映えて、さながら一幅の絵画のような光景が見られるのではないかと期待が高まった。(実のところ、翌朝はあいにくの雨、何とも残念であったというのは後日譚) ロビー階から一つ下がったところに文字通り大浴場があった。広い湯船の向こうには大きなガラス、そして海が広がっていた。この日は、奇しくも満月であったらしい。湯船に身を浸してしばらく休んでいると大きく真ん丸の赤い月が少しずつ上がってきた。薄曇りであったため輪郭が少しぼやけていたが、海面にもオレンジ色の光が揺らめいていた。
こんな時はカメラが欲しい!入浴中とあってはそれも叶わず、暫し、赤い月を眺めて、贅沢なひと時を過ごした。実は、大浴場からさらに階段を降りて行くと露天風呂があると案内されている。まさに海に向かって湯あみする気分は醍醐味もひとしおであろう、と思いつつもこの時は時間がなくそれを楽しむことができず、今となっては後悔している。ホテルの説明を聞くと震災の時は、はるか下に見える海が盛り上がり、2階部分にあるこの露天風呂のあたりまで津波に襲われたとある。 宴会室も大浴場と同じ階にあるが数段の段差を上がると長い廊下があり、その名も「磯浜通り」と名付けられ、大小の宴会室が並んでいた。メンバーには7号室が準備されていた。
エレベーターホールから続く廊下と磯浜通りには数段の段差があり一段高くなっていたが、幸い幅の広いスロープが設けてあり、歩行障害のある方や車いす使用の方にも配慮されていた。事実、この日もロビーや翌朝の朝食会場でも車いす使用の方を何人か見かけた。客層も次第に高齢化してきていることはどこでも共通であり、お客様が障がいの有無にかかわらず、このようなつくりは当然のことながら準備されるべきであろう。
7号室は他の部屋同様、ゆったりして畳敷きであったが最近では和室であってもテーブル式にして欲しいというグループも多く、座卓だけでなく、どちらでも応じてもらえるとのこと。今回も、個々にテーブルを準備してもらい、海鮮御膳をお楽しみいただこうという趣向であった。前夜のセレクトブッフェは好評であったが、幾度も料理を取りに行くことで全員が落ち着いて食事をいただくということでは最後の夜としてはむしろこちらの方が適していたと思う。結果的にはいい選択であったと自負している。 夕食を楽しんでいただいた後、そのまま食後のミーティングへと移っていった。中島寮長のリードでメンバー各位は次々にこの日の感想、そして今回の旅行についての様々な思いや印象について語られた。
朝の瑞巌寺に始まり、五大堂見学を終えたのち、貸切バスでそろそろ紅葉し始めた田園風景などを車窓にやがて石巻市内へ。門脇地区はかつての市街地が広大な空き地となり背丈の高い草が生い茂り、津波の高さを示す高さ6.9mのポールと慰霊の祭壇、そして「がんばれ石巻!」大きなサインボード、復興商店街のがらんとした風景、北上川に面した石ノ森満画館、各所で見かけた仮設住宅群、最大の衝撃は大川小学校の悲劇と無残な校舎の残骸、そして亡くなった児童などの名前が刻まれた慰霊碑があった。各所で祈りを捧げ、復興の足音がさらに強くなっていくようにと願いながらここ南三陸までやってきたことなどメンバー各氏の記憶と印象は驚くほど鮮明で強烈であった。そして、明日の「語り部ツアー」ではどのようなことを見学し、どのような話を聞かせてもらえるのであろうか、興味と、一方でさらなる悲しみと衝撃を味わうであろうことが予想されたこの夜であった。 (以下、次号とさせていただきます。) 資料(上から順に) 南三陸ホテルの広いロビーとラウンジ 部屋は文字通りOcean View! 南館4階男性大浴場(資料借用) 宴会室階「磯浜通り」へのスロープ 海鮮御膳、ウェイトレスの説明を聞きながらなべ物の蓋(ふた)を取る! 夕食会を終えて記念撮影 (2017/08/08) 小 野  鎭