2022.01.24 小野 鎭
一期一会 地球旅 205 ユニバーサルツーリズムの普及を目指して(3)

一期一会 地球旅(205) ユニバーサルツーリズムの普及を目指して(3)

 次の大きなプログラムは、バリアフリー旅行の実践。外出支援ということで日帰り旅行計画の立案と実行が骨子であった。この年、2月に霞ケ浦での湖上遊覧を楽しんでいただく経験をしていたが、今度は、学生たち自身が最初から最後までを通しての活動であった。お客様としてご協力いただいたのはこの時もさいたま市にあるNPO法人ビーポップ様であった。 2年次前期は、学生にとっては最大の山場である就活がメイン。入社希望のエントリーと実際の受験、面接へと続き、公欠も多かった。旅行系学科全体では、早くも内定をいただいて歓声を上げている学生もあれば、反対に意気消沈している者もあり、激励と指導は担任にとって大きな仕事であった。 5月の連休が明けてビーポップで午後のプログラムに参加、ゲームに加わって汗をかき、メンバーと親しくなることから始まった。この方々に喜んでいただける外出プログラムとは、どんな内容が良いだろうと考えることであった。4人の学生に対して、ビーポップからはお二人のメンバーを外出プログラムのお客様として考えて下さった。
日帰り1日のプログラムとして考えるべき骨子は学生自身がまだつかんでいなかったため、ビーポップ代表の湯澤剛氏は「楽しいこと」とは、を考えると良いのでは、としてワールドカフェ方式のグループワークを提案してくださった。「楽しいこととは?」として、出てきた言葉が50余り、これを種別にいくつかにグループ分けした。それらを基にして学生たちそれぞれが外出計画を立案してプレゼンテーションを行い、その中から日帰り旅行として決定してそれを実行することになった。内容は、これからであるが、テーマの名称は、「Enjoy ♡(Heart)」と命名された。ちなみに、NPO法人ビーポップのホームページ http://npo-b-pop.net/contents/info.htmlを拝見すると、「枠にとらわれない様々な活動を通して、皆さんの『楽しい』を実現していきます」とある。 学生たちは、就活と通常の授業に加えて、その中でEnjoy Heartのプログラムを考えることは時間的にも精神的にも厳しかったと思うが、1カ月余りをかけてそれぞれが企画案をまとめて、6月中旬にビーポップでのプレゼンテーションが行われた。結果的に「浅草寺参拝と仲見世散策、隅田川遊覧とお台場でのアトラクション」コースに決まった。前年の国内旅行は、学校主催の研修行事であり、予算と日次等は学校側から示された一定条件内で行うべきことであったが、今回は完全にこの学科での独自のプログラムであり、日程設定、旅行行程、予算等は原則的に学科(学生)で立案し、お客様に提示して内諾を得たうえで学校側の承認を得てバリアフリー旅行実行計画案が成立した。 旅行準備は、時間がたつにつれて熱心さが加わり、なかなかのものであったが、プランの実行は、実体験がなかっただけに計画案の中身には不十分さも散見された。手を加えるとか、助言したいことはたくさんあったが、彼らから相談があるまでは、余計な手出しはせずに見守った。こんどは、自分たちが立案した外出計画であり、会計業務、予約手配、予想される大きなバリアとその克服を含む介助支援などは自分たちの下調べを基に最終計画を固めていった。前年の国内研修旅行に比べるとはるかに真剣さが違っていたことを覚えている。 こうして7月2日、「Enjoy ♡」は当日を迎えた。JR南浦和駅が出発点であるが、武蔵浦和駅から来られる方もあり、南浦和駅構内での具体的な集合場所について打合せしていなかったため、スムーズにお客様と会えず、予定外の時間を要したことが最初のトラブルであった。
今のように携帯電話がもっと機敏な働きをしていればそれほど混乱することもなかったと思うが、改札口の内側と外側の移動時間などに誤差を生じるなど円滑に進まなかったことが原因であった。4人の学生の内、2名は浅草に直行して水上バスの団体券を購入するため別行動していたため、学生2名がお客様を介助して秋葉原でつくばエキスプレスに乗り換えて浅草に向かった。こうして、浅草で先発組とも合流して、浅草寺に向かった。参拝を終えて仲見世等を散策し、水上バス「ヒミコ」で無事、お台場へ着いた。時々歓声を上げたり、掛け声をかけて車いすを押したり、お台場での昼食では食事介助なども何とか恰好をつけることが出来た。よほどのことでなければ、自分は口も手も出さず、写真を撮ったりしながら同行したが、お客様は二人とも男性であったので、トイレ介助は小職が行った。
実は当日はビーポップ側でスタッフ数名を派遣され、覆面支援隊として、グループと付かず離れずしながら追いかけられていた。何らかのトラブルが発生するとか、万一に備えて法人側として気を遣っておられた。こうして、お台場でのアトラクションが予定通り終わるころ、覆面支援隊が登場、メンバーと合流して互いの存在に大笑い、そして、全員で「エンジョーイ!」と歓声を上げ、メンバーはスタッフと共に浦和へ引き上げられ、この日のプログラムは無事終了した。
この日の外出支援は、プロのトラベルヘルパーから見れば極めて初歩的なものであるが、この時の学生の一人である廣中美子さんからの紹介であろうか、株式会社 SPI あ・える倶楽部のお出かけプログラムとして、時々見かける。社のトラベルヘルパー報告書のなかで、浅草寺詣でや水上バスでお台場へ、などのコースを見かけると10数年前の学生たちの実践バリアフリー旅行を思い出す。学生たちの報告書は今も筆者の大切な宝物の一つであり、それを読み返すと今も胸が熱くなる。報告書の最後にある学生の一文に次のようなものがある。 「今回初めて一つの旅行を企画、プレゼン、事前準備、実施とやった。一年間学んだとはいえ、わからないことだらけでいっぱいだったことが正直な感想。「車いす」だからだとか、『ここはエレベーターがないから』だとかを深く考えずに企画したが意外にどうにかなるものだと思った。(中略)学んだことや反省点をここにすべて上げることはできなかったが、とてもいい経験をさせていただき感謝している。途中で何度も投げ出したくなったが、旅行実施までもっていけたことが嬉しい。納得いかなくて嫌になったり、苦い思いをたくさんしたが、KさんやHさんの思い出に残る旅行になったのならば成功だと思う。」(学生N) 写真(上から順に、ことわりない限り、筆者撮影) 日帰り旅行、準備打合せ 浅草寺境内散策 覆面支援隊と合流、みんなで「エンジョーイ!」 Enjoy ♡ 報告書