2022.03.22 小野 鎭
一期一会 地球旅 213 イタリアの美とスイスの絶景を訪ねる旅(5)

 ツェルマットなどのあるヴァレー州はスイスの最南部にあり、アルプスの北側に位置しており、その南側一帯はイタリアである。この地に至るにはスイス西端のジュネーブからローヌ川に沿って入ってくるルート、あるいは空の玄関口チューリヒからいくつかの峠道を通ってくる方法、もう一つは、アルプスの南側からシンプロン峠または同名のトンネルを通ってブリーグに到る。三つの方向から入ってきて、いずれもフィスプ(Visp)からマッター渓谷の谷間を徐々に上ってやがてテッシュ(Täsch)に到る。鉄道の場合はそのまま、ツェルマットへ達することが出来るが、環境保全のためバスや一般乗用車はテッシュから奥へは入ることが出来ず鉄道に乗り換えることになる。駅のすぐ近くには大きな駐車場があり、たくさんのクルマやバスが置かれている。 山ふところを次第に上がっていくと谷の両側には、よくもこんなところに、と思うようなところにも集落を見かける。
今では、自動車道路も通じており、一方ではケーブルカーやロープウェイがかかっているところも多いので交通も便利になっているとは思うが昔は谷一つ越えるのも、難儀であっただろう。まして万年雪をいただく山の反対側に至るには数十キロ廻るしか道がなく、日々の生活も容易なことではなかったと思う。山の向こう側とは、言葉が違うとか、風俗や習慣、即ち文化が変わることもあるだろう。旅行者にとってはそれがまた旅の醍醐味ということかもしれない。鉄道以外にも主要な道路にはPost-Busが通じている。この郵便バスは、交通手段として使われる一方、郵便物や小包なども運んでいる。日本でも少し聞いてはいるが、宅配便やゆうパックの輸送と地方のバスなどを相乗りさせるとか特に過疎地などの交通や輸送手段を確保するためにもさらに多様な方法を講じてみるとよいのではないだろうか。 ツェルマットは、スイスを代表する山岳リゾートの一つであるが、自分はベルナーオーバーラントのユングフラウ地域ほど、幾度も訪れてはいない。6~7回といったところであろうか。ヴァレー州の最奥部にあり、有名なマッターホルンは地図を見ると頂上部分の反対側はイタリアになっている。日本では、マッターホルンと呼ぶのが一般的であるが、牧草地の角(笛)という意味合いになるらしい。アルプスでは急な斜面にも緑の牧場や草地が美しく広がっており、その上にすっくと立っている鹿の角としてこの山の名前が定着してきたのであろうか。イタリアではモンテ・チェルヴィーノ、ヴァレー州ではフランス語も使われているのでモン・セルヴァンという呼び方も為されている。ツェルマットには、モン・セルヴァン・パレスというホテルもある。
いずれも山のシカの角を意味している。ドイツ語では楽器のホルンもそうであるし、ドイツでは郵便ポストにも角笛のサインが描かれている。
マッターホルンの見物ということから言えば、自分は、相性があまり良くないというのが正直なところかもしれない。写真などで見かける峻烈な雄姿を全部仰いだことは2~3回のような気がする。ユングフラウ地域がスイスの空の玄関口であるチューリヒから半日程度で到達できるのに比べて、ツェルマット一帯まではほとんど1日がかりになることが多い。従って、2泊3日程度の予定で行くとしても全体的にはゆったりした日程を準備することが求められる。つまり、旅行全体の日程中でもかなりウェイトを置いて旅程を組むことが望ましい。そんな訳で2011年の旅行では、3泊4日滞在として中2日をこの地域に充てることにして、1日目はゴルナグラート遊覧、もう一日をフリータイムとした。
ツェルマット自体海抜1600m余りの高地であるので、ここから海抜3000m余りのゴルナグラートまでは、登山鉄道に乗って45分ほど、比較的容易に到達できる。終点で電車を降りると、展望台からはマッターホルンはじめ、スイス最高峰のモンテローザ連峰など一帯の山並みには万年雪と氷河をいだく荒々しい風景を望むことが出来る。ところが、この日も生憎の天候で寒々とした風景しか見えず、眼下のゴルナー氷河方面から吹き上げてくる冷たい風にコートの襟を立ててマフラーをしっかり巻くなどの慌ただしいひと時であった。 お昼ごろにはふもとに戻り、駅前付近で三々五々昼食をとり、土産物店をのぞいたりして、ホテルに戻って小休止をとった。
実は、この日、折しも女子サッカーのワールドカップ決勝戦が行われることになっていた。肝心の試合がどこで行われたかは忘れたが、なでしこジャパンがアメリカと対決。ホテルのテレビ中継を観戦して声援を送った。見事、なでしこが優勝ということでメンバーそれぞれが歓声を上げて祝福したことを思い出す。

(以下、次号)

写真&資料(上から順に。ことわりのないものは筆者撮影) スイスの絶景を巡る旅 行程図(Paddock Post資料を元に書き込み) マッター渓谷(Mattertal)風景 ドイツ郵便のロゴ(Deutsche Postより) 快晴のゴルナグラートにて (海外医療事情視察団 最前列右端が筆者 1980年7月 撮影) 今回のグループ、ゴルナグラートにて(2011年7月17日) なでしこジャパン 女子サッカー FIFAワールドカップにて優勝(2011年7月17日 JFA資料より)