2022.04.11 小野 鎭
一期一会 地球旅 216 パールロードから南イタリアを巡る旅(2)

一期一会 地球旅 【216】 パールロードから南イタリアを巡る旅(2)

 
スロベニアの首都リュブリヤナで2泊した後、クロアチアのプリトビーツェ湖群国立公園へ向かった。車窓には畑作や牧草地帯が続き、オーストリアやドイツで見る風景とほとんど変わらない。1時間もしないうちに国境であった。日本の高速道路の料金所のようなところでバスは停まった。旅券検査を受けることもなく、ドライバーが何かの書類に必要事項を書き込み、サインするだけでクロアチアに入った。
これまでと同じような風景が続き、田園や森林地帯など自然の中に広告版などを立てることは環境保護保全の立場からも規制されていると見え、それらしい看板もなくすっきり見えて美しい。日本でも最近は都市近郊や農村風景が美しくなってきていることを感じるが、ヨーロッパのそれはさらにそれを上回っているような気がする。大きな理由は、屋外広告が自然の中に建てられていないだけでなく、建物は伝統的な建て方が多く、例えば、赤瓦と茶色の壁、建物の屋根や壁などは伝統的な工法で建てられていること、農村部であれば近代的なビルなどがほとんど見当たらないこともあるかもしれない。多くの集落が、日本であれば、重要伝統的建造物群保存地区(通称:重伝建)として指定されそうな感じである。初秋のやわらかい陽を浴びて赤い屋根の建物が続く集落などが車窓を流れていく。 車中では、世界遺産について少しばかり案内をした。メンバーは筆者が添乗して案内した海外4回、国内1回の旅行でこれまでに20数か所の世界遺産を訪れている。それ以外にも個人または団体旅行に加わってハワイに20数回行っている人もあるし、中国の敦煌や九塞溝、ネパールの山にトレッキングに行った人、古代ローマの遺跡を求めて地中海周辺諸国から北アフリカや中近東諸国にまで足を伸ばす一方、アフリカのジンバブエ/ザンビアにまたがるヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニヤ)を見に行った人、ほかにも南米はベネズエラのカナイマ国立公園に行って落差世界一のエンジェルの滝を見に行った人もある。つまり、きわめて旅行経験豊富な人たちであり、毎回の旅行中も文庫本を携えている読書家もある。世界遺産についてわかりやすく説明する一方、世界史や地理などを含めていい加減な案内は許されない。旅行出発前に周到な準備をしていったことは言うまでもない。
 ハイウェイを下りて地方道に入り、集落を抜けると中にはかつてのユーゴ内戦の跡を見かけたこともあった。ある街では、町はずれの公園に壊れた戦車や戦闘機の残骸がそのまま陳列されていたところもあった。ドライバーに聞くと、内戦のモニュメントとして置かれているのだろう、という。しかし、彼自身は20年近く前の内戦当時は多分少年時代であったと思うが、そのころのことについては語りたくなかったようであった。
 筆者が学生の頃、習っていた社会科や地理の授業では、かつてのユーゴスラビア社会主義連邦共和国があったバルカン半島は「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、世界中でも特に不安定で物騒な地域であった。ユーゴスラビア連邦が紹介されるときよく聞いていたのは、この連邦国家には七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの原語、三つの宗教、二つの文字、があり、それによって一つの連邦国家が成立しており、まとめていたのがチトー大統領であった。六つの共和国とは、スロベニア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナとマケドニアであり、今回の旅行では、このうち最初の2ヵ国とほんの数kmだけ、ボスニアを通り抜けた。

 1990年代初頭に、それまでの米ソ冷戦体制が終結し、民族紛争が噴出した時代であり、その代表的な例がユーゴスラビア紛争であったといわれている。ユーゴスラビア連邦が解体されていく過程で起きた各地の紛争の様子は日本ではバブル経済が崩壊していたころでありよく報道されていた話題であった。旅行業に身を置きながら視察や研修団であっても、自分が案内していくヨーロッパではこれらの国が含まれることはほとんどなかった。当時は、外務省の海外安全情報でこれらの地域への渡航は要注意であったし、主催団体もよほどの理由が無ければ、それは難しい話であった。ユーゴ連邦は、しかしながら、決して小国ではなく、イタリアに近い面積(六分の五くらい)があり、位置的には、アドリア海を隔てて西側がイタリア、東側がユーゴ連邦であった。頭の中にその位置は描けても、知名度ということから言えば、イタリアとは雲泥の差があったかもしれない。そんなことを思いつつ、バスは丘陵地を走り、この日の目的地プリトビ―ツェ国立公園に向かって行った。 (以下、次号)

写真&資料 (上から順に、ことわりのないものは筆者撮影) 旅の始めの夕食会(リュブリャーナ Na Graduにて 2012年9月10日) カルロヴァーツLovacki Rog Restaurant 同レストラン資料より) カルロヴァーツ野外博物館に展示されている戦闘機(Minubeより借用) 旧ユーゴスラビア社会主義共和国連邦の図 (国連資料より)